artscapeレビュー
快快『ゆく年くる年 "SHIBA⇔トン" 歳末大感謝祭』
2012年01月15日号
会期:2011/12/27~2011/12/28
M EVENT SPACE & BAR[東京都]
今年は、大阪での『SHIBAHAMA』以外は海外での公演に明け暮れていた快快。久しぶりの東京でのイベントは『SHIBAHAMA』の基本フォーマットを利用しつつ、立川志ら乃、遠藤一郎、core of bells、捩子ぴじん、安野太郎らのゲスト・パフォーマンスを織り交ぜる、いかにも彼ららしい忘年会。いや、彼ららしさは別の意味でも発揮されていた。それは端的に言えば彼らのミュージカル(レビュー)的傾向だ。三時間を超えるパーティはさながらバラエティ・ショー。それだけでも多様な要素をごちゃまぜに上演するレビューに似ているのだが、より重要なのは、最後の演目として『SHIBAHAMA』リミックス版で見せた、大阪と海外での公演の報告会という体裁をとりながら、いまの日本と世界の状況を彼らなりに振り返り、批評していく演出だ。「地震が来た!」「津波が来るぞ!」と叫び、テレビに映った会見の様子を演じるなど東日本大震災を振り返るイメージをあれこれとり上げたり、今年亡くなった著名人を舞台に召還したりと、震災以降のしょげかえった日本人の心には「どぎつい」と思わせるほどストレートに、今年の出来事をリプレイしてみせた。ミュージカルの一形式であるレビューには、もともと演し物で今年の出来事を振り返るという意味があった。そう思えば、立川流の志ら乃をはじめ、遠藤やcore of bellsのパフォーマンスもレビューの一演し物とみなしうる。彼らが意識しているか否かはともかく、イベント全体が自分たちのいまを歌って踊って笑いながら振り返るレビューに見えた(こうしたバラエティはぼくが小学生の頃のテレビではよく見たものだ。なぜいまないのだろう)。さらに冒頭で、メンバー一人ひとりが落語「芝浜」の物語世界を自分なりに研究する「ワークショップ」の報告会をし(ある者はドラッグ体験を、ある者は風俗体験を、ある者は海外の浮浪者とのやりとりを報告した)、その逸話が後半の上演に散りばめられるという発想も興味深かった。彼らはしばしば、芝居のなかで役から離れた役者本人のパーソナリティに光を当てる。さりげなく置かれた「ワークショップ」の報告会は、役者本人のパーソナリティを強化し、そうすることで役者を演劇のキャラクターにする(やや強く解釈すれば、役者を役にする)機能を担っていた。いまここにいるすべての人を巻き込みながら(言及しなかったが、観客も例外ではない)上演が進んでいく彼らの方法は、演劇らしくない。演劇じゃないのであれば、そう、これは最新型のミュージカルだ。ああ、でもこの「快快流ミュージカル」には、まだまだ未知の潜在的な力がもっとあるはず。それが炸裂する日はきっと、近々やって来る気がする。
2011/12/27(火)(木村覚)