artscapeレビュー

蔵真墨「Men are Beautiful」

2017年01月15日号

会期:2016/12/10~2017/01/28

nap gallery[東京都]

明らかにゲイリー・ウィノグランドの名作『Women are Beautiful』(1975)を意識したタイトル。だが蔵真墨のこのシリーズは、路上スナップということ以外にはあまり共通性がない。アメリカの、白人の、魅力的な若い女性、つまりウィノグランド本人の性的な嗜好を、ぬけぬけと打ち出して撮影した『Women are Beautiful』に対して、蔵の「Men are Beautiful」は、たしかに彼女にとっての異性を被写体に選んではいるが、その選択の幅はかなり広い。いわゆる「イケメン」だけではなく、中年の男性や少年を含み、撮影場所も東京が中心だが、パリやニューヨークやメキシコ・シティーの写真もある。撮り方も、モノクロームのスナップショットの美学を隅々まで貫くウィノグランドに対して、かなり場当たり的でいい加減だ。肝心の「男」がどこに写っているのかほとんどわからないようなロングショットもある。
となると、蔵がどんな基準で「男」を選んでいるかが気になってくる。展覧会にあわせてクラウドファンディングで刊行されたという同名の写真集(Urgent Press)で、彼女はそのことについて「異性としての魅力だけでない何か人としてのきらめき」と書いている。これだけでは曖昧でよくわからないが、写真と照らし合わせてみると、少しずつ彼女なりの尺度が見えてくる。「人としてのきらめき」というのは、生命体そのものから発するオーラのようなものではないだろうか。国籍や年齢や顔立ちや体型を超えた(別に無視するというわけではないが)「何か」を路上で感じとったときに、蔵は躊躇なくシャッターを切っているということだ。「男」という縛りは、逆にそののびやかで自由なスナップショットへの向き合い方を確保するために設定されているように思える。
写真集の出版で一応の区切りはついたようだが、味わい深いシリーズとして育ちつつあるので、もう少しこの先を見てみたい。

2016/12/16(金)(飯沢耕太郎)

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