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ヴォルフガング・ティルマンス「Your Body is Yours」

2015年09月15日号

会期:2015/07/25~2015/09/23

国立国際美術館[大阪府]

2004年に東京オペラシティアートギャラリーで開催されたヴォルフガング・ティルマンスの「Freischwimmer」は、今なお鮮やかに目に残る展覧会だった。大小の写真を壁にちりばめる、いわゆる「ティルマンス展示」が衝撃を与えただけでなく、現実世界を「自由形」で遊泳する、その視点ののびやかさ、幅の広さに驚嘆させられた。その「日本初の回顧展」から11年を経て、大阪・中之島の国立国際美術館で、彼のひさしぶりの大規模展示が実現した。
ティルマンスが1990年代から2000年代にかけての世界の写真シーンをリードする存在であったことは、誰にも否定できないだろう。20年以上にわたって、写真表現の最前線を切り拓いてきたたわけだから、当然彼を乗りこえていく、より若い世代が登場してもおかしくはない。眼前に現れる世界を等価に見つめ、フォルマリスティックなアプローチから、極端にリアリスティックな描写までを鮮やかに使い分けて、実に的確にイメージ化し、見事なセンスで壁面に撒き散らしていく彼の手つきの鮮やかさは認めざるを得ないにしても、そろそろ次世代の表現の形が見えてきてもいい頃だと思うのだ。
にもかかわらず、結論的にいえば、2015年の現在においても、ティルマンスはなお、写真表現のフロントランナーとして疾走し続けている。今回の国立国際美術館での展示にも、回顧展という装い以上に、むしろ貪欲に新たな領域にチャレンジしようという彼の意欲が全面にあらわれていた。「真実研究所(truth study center)」というパートには、日本の社会状況を含めて、彼の全方位アンテナによってキャッチされた、世界中のさまざまな出来事を報道する記事がスクラップされ、2014年のヴェネツィア・ビエンナーレに展示されて大反響を巻き起こしたスライド・プロジェクション作品「Book for Architects」では、カオス的に膨張していく都市の建築物に対する、ティルマンスのユーモアを含んだ批評精神を、たっぷりと味わうことができた。視点の多様性、深み、豊穣さ、どの観点から見ても、彼の表現能力は突出している。とはいえ、やはり「次」も見てみたい。野心的な日本の写真家の誰かに、ぜひ「ポスト・ティルマンス」の名乗りを上げてほしいものだ。

2015/08/16(日)(飯沢耕太郎)

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