2019年07月15日号
次回8月1日更新予定

artscapeレビュー

2011年11月01日号のレビュー/プレビュー

内在の風景

会期:2011/09/17~2011/11/27

小山市立車屋美術館[栃木県]

日豪8人によるグループ展。照明の効いた館内のほか、照明のない土蔵や、敷地内に隣接する登録有形文化財の「小川家住宅」の屋内にも作品が展示された。なかでも際立っていたのは、サンフランシスコ・ジャイアンツのホームスタジアムを廃墟として描いた元田久治のリトグラフと、白い壁面に白い砂糖で植物を描いた佐々木愛。いずれも想像的な風景を描いた作品だが、廃墟を克明かつ現実的に描いた版画と、白い支持体に白いメディウムで描いた茫漠とした壁画という点で、それぞれ好対照だった。和洋折衷の様式美を堪能できる小川家の建築もおもしろい。

2011/10/14(金)(福住廉)

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羊からじゅうたん!~秋の部 糸から織へ~

会期:2011/09/10~2011/12/04

白鶴美術館新館[兵庫県]

関西屈指の高級住宅街、御影山手にあり、東洋・日本美術の秀逸コレクションで知られる白鶴美術館。現在、秋の所蔵品展として「深遠なる中国美術」(本館)、「羊からじゅうたん!」(新館)の2展が開催中だ。今回は後者の展覧会に注目してみたい。
 新館は、威風堂々たる日本建築の本館とは対照的にモダンな外観を有し、入口の扉を開けると柔らかな光に包まれた静謐な空間が垂直方向に広がる。この垂直性は1階展示室の床が入口のレベルよりも下がっていることでもたらされるのだろう。1995(平成7)年にオープンした新館は白鶴美術館のオリエント絨毯の所蔵品の展示を目的として建てられており、高い天井高を確保した空間は、絨毯の縦長の形状を考慮したものと思われる。
 それゆえ、この魅力的な空間では豪奢なオリエント絨毯が吊り下がっているだけでも十分なのだが、「羊からじゅうたん!」展ではさらなる試みが行なわれている。まず、1階には展示作品がなく、代わりに絨毯制作のおもな工程をわかりやすく解説した壁面パネルやパイル織の模型などが置かれている。部屋全体を支配するのは、来場者が「ノッティング(縦糸にパイル糸を結びつけて図柄をつくる作業)」を体験できるワークショップの空間だ。ワークショップは毎週末行なわれており、神戸学院大学人文学部の学生インターンがアシスタントを務めている。筆者が訪れた際、大勢の観客がいたが、学生たちが模型の前でペルシャ結びとトルコ結びの違いについて目を輝かせながら説明する姿がまぶしかった。
 2階にはおもに20世紀初期のオリエント絨毯が展示されている。作品の1点1点に解説文があるため、イラン、トルコ、コーカサスといった地域による図柄の違いや、おもな文様の意味などを知ることができる。一巡すればオリエント絨毯の地域的特色が体系的に掴めるのだ。つまり、1階と2階の展示はともに教育的効果という軸に貫かれており、そうしたやり方はオリエント絨毯を専門的に研究しつつ、一般の美術愛好者の目線にも立とうとする学芸員でなければできないだろう。また、ワークショップの場が大胆に展示空間に導入されることで、美術館の内部は活性化され、人の息遣いが空間に伝わる。とはいえ、建物が元来有する荘重な雰囲気や展示の美的効果が損なわれているわけではない。そのあたりのバランスのとられ方がじつに見事であった。[橋本啓子]


左=バクティアリー、ペルシア中央部、20世紀初頭、ウール
右=春季ワークショップ風景

2011/10/15(土)(SYNK)

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『ペンギンブックスのデザイン 1935-2005』

発行日:2010年3月
著者:フィル・ベインズ
発行日:2010年3月
発行:ブルース・インターアクションズ
価格:2,940円
サイズ:A5並製、264ページ

1935年に英国で創刊されたペンギンブックスの70年間にわたる表紙デザインを追った、じつに目に楽しく(図版は500点を超える)、読んで面白い(綿密な調査分析に基づく)本である。なによりもご覧のとおり、「表紙デザイン買い」をしてしまいそうな装丁。「ペンギン」のブランド・カラーであるオレンジが、本論頁の紙にも効果的に使われている。それもそのはず、著者はロンドンのセントラル・セントマーティンズ美術大学で教える傍ら、フリーランスのグラフィック・デザイナーとして活躍している人物。ブック・デザインが象徴的に示すとおり、本書は、ペンギン・ブランドがどのように構築・展開されていったかについて、会社の歴史・デザイナーの手法・各「シリーズ」「ブランド」の特徴と変遷・タイポグラフィ分析・技術的変化など、複数要素を通じて探求している。巻末にはヤン・チヒョルトが考案した「ペンギン組版規則」が掲載されてもいる。同社の歴史が、グラフィック・デザインの発展といかに轍をひとつにしてきたか、深く考えさせられる。[竹内有子]

2011/10/15(土)(SYNK)

ニューアート展 NEXT2011 Sparkling Days

会期:2011/09/30~2011/10/19

横浜市民ギャラリー[神奈川県]

横浜市民ギャラリーの企画展。曽谷朝絵、荒神明香、ミヤケマイが参加した。作品点数の多さと抑揚をつけた会場構成のおかげで、かなり見応えがあった。曽谷は日常的な事物を虹色の色彩で描いた油彩画のほか、室内全体にレインボーカラーのフィルムを張りめぐらせたインスタレーションも発表して、身体を光と色彩に埋没させるような陶酔感を味わわせた。立版古のような立体的な絵画を制作しているミヤケは、他の追随を許さないほどの作品点数で圧倒した。震災をテーマにしたインスタレーションは必ずしも成功しているとはいえなかったが、それでも絵画で描いた世界と絵画を見る世界をリンクさせたかのような会場の作り方がひじょうに効果的で、来場者を巧みに自分の世界に誘いこんでいた。そして荒神は、スパゲティの乾麺を一本ずつ組み合わせることで、空中楼閣のような巨大な都市のジオラマを作り出した。その全体を天井から吊り下げているため、上から見下ろすだけでなく、下から見上げることもできるのが楽しい。大小さまざまな建物、そのあいだをつなぐ階段、さらには塔や山。それらを構成する乾麺という素材が、一定の強度を担保していることは言うまでもない。けれども、現在の都市が一瞬のうちに瓦解してしまいかねないことを知ってしまったいま、ある一定の条件のもとではたちまち強度を失ってしまうという脆弱さの方が際立って見えたのも事実だ。私たちの都市は空中楼閣のように儚くも脆いのかもしれない。荒神のインスタレーションは、現代人が内側に抱えている不安定な都市感覚を的確に視覚化していた。

2011/10/16(日)(福住廉)

伝統芸能バリアブル

会期:2011/10/16

京都芸術劇場 春秋座[京都府]

キュピキュピの主宰者で、映画監督としても活躍する石橋義正が、キュピキュピと伝統芸能を融合させるユニークな試みを行なった。演目の構成は、ダンス、音楽、映像(2日と3日)、照明が融合したキュピキュピ特有のパフォーマンスと、能楽、長唄、浪曲が交互に登場する形式で、両者をつなぐ役割も兼ねて「打打打団 天鼓」の和太鼓演奏が節目ごとに行なわれる。もちろん、伝統芸能の場面でも照明やスモークなどの演出があり、どちらかといえばキュピキュピの世界に伝統芸能を引き込んだ作品であった。生粋の伝統芸能ファンの評価はわからないが、元々雑食性だったキュピキュピの世界が、この公演を機に更に広がるとすればウェルカムだ。特に3D映像は効果的で、今後も多用される可能性が高い。なお、本公演は「KYOTO EXPERIMENT 2011 京都国際舞台芸術祭」のプログラムである。

2011/10/16(日)(小吹隆文)

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