artscapeレビュー
2011年11月01日号のレビュー/プレビュー
イタリア・ファエンツァが育んだ色の魔術師──グェッリーノ・トラモンティ展
会期:2011/09/10~2011/11/13
東京国立近代美術館工芸館[東京都]
グェッリーノ・トラモンティ(Guerrino Tramonti, 1915-1992)は、マヨリカ焼の産地、イタリア北部ファエンツァ出身の陶芸家である。ファエンツァは、12世紀頃にマヨリカ島から伝わった錫釉陶器の産地であり、現在でも陶芸学校や国際陶器博物館がある。現代陶芸家カルロ・ザウリ(Carlo Zauli, 1926-2002)もファエンツァ出身で、トラモンティとほぼ同時期に活躍している。
ファエンツァ王立陶芸学校で学んだトラモンティの創作の範囲は陶芸にとどまらない。1929年頃から始まった創作活動の当初は、彫刻や絵画で評価を受けている。やがて陶芸コンクールなどへの出品によって、陶器に創作の中心が移り、その生涯においてさまざまな表現を試みた。1950年前後、トラモンティの作品は、女性の頭部やレリーフなどの彫刻的な造形(図1)から、鮮やかな色彩の絵画的な作品へと変化する(図2)。かと思うと、1960年代の作品は一転して絵画的表現は姿をひそめ、「二重構造のフォルム」シリーズに見られるような形態と釉による表現を追求する(図3)。そして1970年代になると、ふたたび絵画的表現に戻る。技法としては、縁を立てた円形もしくは方形の陶板に、黒い輪郭をともなってモチーフを描き、ガラス釉を施す。焼成後、厚いガラス釉にはクラックが入り、それが独特の印象をもたらしている(図4)。モチーフは身の回りの品々。猫、魚、瓶、海草、洋梨、ピーマン、西瓜、無花果の葉、真珠を摘む指先などが繰り返し用いられている。明るく鮮やかな色彩と明確な輪郭の作品は、とても楽しい。1970年代には絵画も多数制作されたが、陶板と同様のモチーフが用いられ、砂を混ぜて描かれた油彩の質感もまた彼の陶板との共通性を感じさせる(図5)。同時期の作品には頻繁にアルファベット(大文字のRが多い)が現われるが、これがなにを指しているのかいまのところわかっていないのだそうだ。2009年にイタリアで開催された回顧展以降、トラモンティの作品はふたたび注目を集めてきているという。これから研究が進み、モチーフや文字の謎が明らかになることであろう。
本展は山口県立萩美術館(2011年12月10日~2012年2月12日)、西宮市大谷記念美術館(2012年4月7日~2012年5月27日)、瀬戸市美術館(2012年6月9日~2012年7月29日)に巡回する。[新川徳彦]
2011/10/20(木)(SYNK)
プレビュー:龍野アートプロジェクト2011「刻の記憶」
会期:2011/11/18~2011/11/26
うすくち龍野醤油資料館周辺の醤油蔵、龍野城、聚遠亭(藩主の上屋敷)[兵庫県]
「小京都」とも称されるとおり、タイムマシーンに乗って過去に戻ったかのような古い街並みが眼前に広がる城下町「龍野」(兵庫県たつの市)。童謡「赤とんぼ」の作詞者、三木露風を初め、数々の文化人が輩出した地としても名高い。今回、同地で初めて開催される現代美術展「龍野アートプロジェクト2011『刻の記憶』」は、いわゆるオフ・ミュージアム型の芸術祭で、再生された古い醤油蔵や龍野城(本丸御殿)、聚遠亭(藩主の上屋敷)で美術家によるインスタレーションが行なわれる。近年、地域の活性化を目的とした芸術祭の開催が盛んだが、今回の龍野アートプロジェクトに特徴的なのは、運営スタッフのみならず出品作家もこの地域在住、出身の人々等で構成されている点だ。それだけに、「刻の記憶(トキノキオク)Arts and Memories」という展覧会テーマが大きな意味を持つインスタレーションとなることが期待される。出品作家は、尹熙倉(ユン・ヒチャン)、東影智裕、小谷真輔、佐藤文香、芝田知佳、ルーアン美術学校卒業生(モーガン・アレ、カウータ・ベクレンシ、エミリ・デュセール、レミ・ジャノ、井上いくみ)。11月13日(日)にはプレ・イヴェントとしてルーアン美術学校卒業生による醤油蔵での公開制作がある。会期中はアーティスト・トーク、子どもを対象としたワークショップ、作品ガイドツアーなど多数のイヴェントが行なわれる。詳細は、公式ウェブサイト参照。[橋本啓子]
2011/10/31(月)(SYNK)