artscapeレビュー

2013年12月01日号のレビュー/プレビュー

密る日に 藤本絢子 Exhibition

会期:2013/11/02~2013/11/17

京都東急ホテル ギャラリーKAZAHANA[京都府]

金魚をモチーフにした、赤、黒、白などの斑点が画面いっぱいに広がる絵画作品で知られる藤本絢子。近年の作品は抽象化が一層進み、《天の川シリーズ》と題された作品では、色数の増加とラメ・パウダーの使用もあって、蒔絵のごとき装飾美が感じられる。同時に、現代の女性たちの間で流行するネイルなどのデコ文化とも共通性が感じられ、古典と現代の両方に繋がっているのが興味深い。京都では2年ぶりとなる本展では、学生時代の作品も含む約20点が出品され、彼女の作風の変遷が概観できた。また、花をモチーフにした作品や、百貨店のプロジェクトで制作した浴衣も花を添えていた。

2013/11/12(火)(小吹隆文)

五線譜に描いた夢──日本近代音楽の150年

会期:2013/10/11~2013/12/23

東京オペラシティアートギャラリー[東京都]

明治維新以降、日本は欧米に肩を並べる近代国家であることを示すために、さまざまな分野に欧米の制度を移入しはじめた。欧化の波は軍隊、法律や社会制度、経済などのシステムにとどまらず、頭髪や服装★1、煉瓦造りの洋風建築の導入などによって可視化されていった。絵画においては技法としての油画が導入されたばかりではなく、対象物を見る視線も大きく変化し、その変化は旧来からの日本絵画の世界にも影響を与え、新しい表現を生み出していった。音楽の分野においても同様に西洋の楽器や楽曲が導入され、それはやがて日本独自の「西洋音楽」を生み出してゆくことになる。この展覧会は、このような日本における西洋音楽の受容と展開の足跡をたどる企画である。
 展示の中心は、明治学院大学図書館付属日本近代音楽館の所蔵資料である。日本近代音楽館は、音楽評論家の遠山一行氏(1922- )が1962年に設立した旧遠山音楽財団の付属図書館を前身として、1987年に開館した私立の図書館であった。蒐集されたのは、クラシック音楽を中心に、作曲家の自筆譜、書簡や原稿、音楽に関連する図書や雑誌類、プログラム、レコードなどの録音資料である。遠山氏の高齢もあり2010年に所蔵資料50万点が明治学院に寄贈され、2011年から新たに明治学院大学図書館付属日本近代音楽館として開館し、資料の蒐集・整理・公開が行なわれている。
 展示は時代別に四つのセクションに別れている。第一は幕末から明治。日本に来航した外国軍隊の軍楽やキリスト教宣教師がもたらした賛美歌は、幕末から明治初期の人々に西洋音楽との接触をもたらした。ヘボン式ローマ字で知られるアメリカ長老派教会の宣教医J・C・ヘボンが1863年に横浜に開設した塾では英語教育が行なわれるとともに賛美歌が歌われ、また日本の初期賛美歌編纂の拠点にもなっていたという★2。明治政府は近代的な軍制度の整備に着手したが、そのなかで欧米に倣って軍楽隊も設置された。また宮廷の祭事にも西洋音楽が取り入れられたがその演奏を担ったのは雅楽の伶人たちであった。さらに西洋音楽は学校教育にも取り入れられ、オルガンやピアノなどの楽器を国産する試みも行なわれはじめた。西洋音楽が愉しまれた場としての鹿鳴館の存在も忘れることはできない。
 第二は大正モダニズムの時代。西洋音楽の受容は、片や芸術へ、片や娯楽へと多様な拡がりを見せる。芸術としての西洋音楽としてここで特に焦点を当てられているのは山田耕筰(1886-1965)である。日本近代音楽館は1967年から山田耕筰資料の寄贈を受けており、ほぼすべての曲の自筆譜があるという。教育の点では童謡運動が挙げられている。また娯楽としての音楽の筆頭には浅草オペラの隆盛があり、西洋音楽は日本の文化と混じり合い、独自の展開をはじめていったことが指摘される。
 第三は戦前期の昭和である。ラジオやレコードの登場と普及は、熱心なクラシックファンを生んだ。オーケストラとその聴衆が誕生するのもこの時代である。他方で戦争が近づくと音楽も戦意高揚の手段に組み込まれてゆく。
 そして最後は戦後の音楽である。ここでは実験工房の試みなどに見られる現代音楽への道筋と、戦後各地に誕生したオーケストラの活動が紹介される。
 東京オペラシティアートギャラリーの空間で「音楽の歴史」をどのように見せるのか。おそらくその展示構成には相当な工夫がなされたと思う。展示資料の大部分は作曲家の自筆楽譜、書籍雑誌、プログラムなどである。それに加えて初期の西洋楽器やレコード、佐藤慶次郎の振動するオブジェなどがあるが、立体的な資料は一部である。ともすると平板な構成になりかねない会場であるが、平面的な資料が収められた展示台を壁面に沿わせるのではなく展示室に斜めに配するなど、空間や動線に工夫がなされている。また、研究者へのインタビュー映像や再現演奏のビデオは、クオリティが高く内容も充実している。古い音源も各所に多数用意され、ヘッドホンで聴くことができる。すべての映像と音源を視聴すると4時間かかるとのことで、展示品の鑑賞も含めると半日では見終えることができないヴォリュームである。会期中8回にわたるミニコンサートが企画されているのも、音楽の展覧会ならではである。そして、そのままでは散逸しかねなかった日本の西洋音楽の貴重な史料を蒐集・整理・保存してきた遠山一行氏の仕事と、それを継承することになった明治学院にはなによりも敬意を表したい。[新川徳彦]

★1──文化学園服飾博物館で開催されている「明治・大正・昭和戦前期の宮廷服──洋装と装束」展では、皇室や宮廷行事における衣裳の西洋化の諸相を見ることができる(文化学園服飾博物館、2013/10/23~12/21)。
★2──明治学院はヘボン塾が起源であり、塾が開設された1863年を創立年として今年創立150周年を迎えている。本展覧会はその記念事業のひとつでもある。なお横浜開港資料館ではやはり記念事業の一環としてJ・C・ヘボンに焦点をあてた「宣教医ヘボン──ローマ字・和英辞書・翻訳聖書のパイオニア」展が開催されている(横浜開港資料館、2013/10/18~12/27)。

2013/11/13(水)(SYNK)

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宮本亜門(演出・振付)『メリリー・ウィー・ロール・アロング──それでも僕らは前へ進む』

会期:2013/11/01~2013/11/17

銀河劇場[東京都]

門外漢ではあるのだけれど、珍しくミュージカルを見に行ったので、印象を記しておこうと思う。本作は、もともと1934年にジョージ・カウフマンとモス・ハートによってつくられた同名作を、1976年から1957年に舞台をかえてジョージ・ファースが脚本をスティーヴン・ソンドハイムが曲を書いてリメイクした、バックステージもののアメリカン・ミュージカル。「1976年から1957年」と書いたが、この作品の際立った特徴は時間が逆行するところだ。主たる登場人物は2人、ハリウッドのプロデューサー(フランク:柿澤勇人)とニューヨークで活躍する劇作家(チャーリー:小池徹平)。フランクは成功を収めているがいまの成功はかりそめに過ぎないと絶望しており、いまとなっては困難なのだが、本当は若いころに一緒に作品をつくったチャーリーとやり直したいと思っている。華やかだが虚しさの漂うパーティ場面から、物語は2、3年の間隔で過去へと遡行してゆく。テープを巻き戻すように2人がどうして仲違いをしてしまったのか、あるいはかつてはどんなに仲の良い2人だったのか、どんな若々しい希望に溢れた夢を語り合っていたのか、約20年分の2人の過去が次第にわかってくる。ミュージカルらしい強引で生真面目な構造は不可逆的で、引き返せないジェットコースターのよう。キャンピー(わざとらしくておかしい)だけれど、よくできていて、とくにそう思わせるのは、青春期から中年期へと進む普通の進行であれば、希望が絶望に変わるだけの話が、逆に進むことで、絶望から希望の話に錯覚してしまうところだ。いや、本当は絶望への物語なのでそう錯覚すること自体皮肉めいているのだけれど、〈内面の沸き立つ思いがあふれてきて思わず歌い踊ってしまう〉というミュージカル独特のフォーマットを活かすには、希望へと進んで行く趣向はきわめて合理的なはず。けっして明るい話ではないのに、見終わった感触がいい、でも、たんにハッピーエンドではない、という絶妙な味わいが生まれていた。正直、小池徹平や高橋愛といった芸能人や、その他の歌手、ミュージカル俳優たちの演技の質はよくわからない。メロディーを歌いこなせていないのではと思わされるところも目立った。プロジェクション・マッピングを用いた舞台美術はすっきりとしていて、またミュージカルの虚飾性にフィットしているとも思った。

2013/11/13(水)(木村覚)

三島喜美代─Painting Period 1954-1970

会期:2013/11/09~2013/12/14

ギャラリーヤマキファインアート[兵庫県]

三島喜美代といえば、印刷物の活字をシルクスクリーンで陶に転写した立体作品が有名だ。しかし、本展の主役はそれらではない。1950年代後半から70年頃まで制作していた、コラージュとペインティングのミクストメディア作品約10点が出品されたのだ。同世代ならともかく、後進の世代がこれらの作品に接する機会は皆無に等しい。戦後美術史を掘り起こす貴重な機会をつくってくれた画廊と作家に感謝したい。三島は現在も新プロジェクトを着々と進行中とのこと。活動歴60年を超えて、ますます意気軒昂。

2013/11/16(土)(小吹隆文)

中見真理『柳宗悦──「複合の美」の思想』

発行日:2013年7月20日
発行所:岩波書店
価格:800円(税別)
サイズ:新書判、221ページ

民藝運動の創始者として広く知られる柳宗悦(1889-1961)の諸活動を、「民藝から解き放つ」ことを目的に書かれた書。国際関係文化史を専門とする著者は、「平和思想家」としての柳の像に照明を当てる。そして、柳の多方面にわたる活動(宗教哲学/沖縄・東北・アイヌの地方文化に対する積極的な評価・コミットメント/朝鮮に対する植民地支配を批判など)を貫く思想を「複合の美」に見る。そのキーワードは、「野に咲く多くの異なる花は野の美を傷めるであろうか。互いは互いを助けて世界を単調から複合の美に彩るのである」という彼の言葉から引用されている。当時の社会が有した諸問題に相対して実践的な行動を起こした柳の思想から、現代の私たちはなにを読み取るべきなのか。本書はそのような問題意識のもとに、国際平和や理想的社会の実現という観点から、柳宗悦の独自の思想の形成を追究する。彼の包括的な全体像を、民藝運動のみにとらわれずに示そうとする、新しい視点の書である。[竹内有子]

2013/11/16(土)(SYNK)

2013年12月01日号の
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