artscapeレビュー
2009年08月01日号のレビュー/プレビュー
市川孝典 VITAGE BROWN
会期:2009/06/17~2009/06/30
PLSMIS[東京都]
線香の炎で紙に穴を穿ち、その文様で絵を描くアーティスト。ロシア貴族の衣裳や城内のシャンデリアなど、作家がかつて見た記憶の風景を描き出している。炎の温度によって濃淡を描き分けるなど、描写の技術を独自に開発することで、下書きなしの一発勝負を見事に勝ち取っている。
2009/06/27(土)(福住廉)
村田真 展
会期:2009/06/16~2009/06/28
ZAIMギャラリー[神奈川県]
美術ジャーナリスト、村田真の個展。壁面の一面にところ狭しとキャンバスを埋め尽くした平面インスタレーションを発表した。ほとんどのモチーフは西洋美術史の名作を引用していたようだが、なかでも際立っていたのが本の絵。キャンバスの厚みと本のそれを一致させることで、本を立体的に再現していたが、描写しているのはキャンバスの表面、つまり本の表紙だけで、もちろん中を開いて読むこともできない。二次元の中にどれほど三次元のトリックを持ち込んでも、結局のところ平面に還元されざるを得ないというアイロニーが効いていたようだ。
2009/06/27(土)(福住廉)
岡林真由子 展「玻璃の町」
会期:2009/06/30~2009/07/05
立体ギャラリー射手座[京都府]
人気のない町並みを描いた岡林の絵画作品。彼女は目にとまった幾つかの風景を切り取り、1枚のキャンバス上に貼り合わせた「どこでもない町」を描いている。この方法だと物語や象徴をいくらでも取り込めるが、そちらに転ばないのが岡林の良いところ。どこか不自然な状態で停止した世界が、永遠の刹那を保ったままキャンバスに定着されている。ちなみにタイトルの「玻璃の町」とは、萩原朔太郎の小説『猫町』に登場する幻覚の町のことだ。
2009/06/30(火)(小吹隆文)
多田ユウコ 空遊書画
会期:2009/06/30~2009/07/04
サードギャラリーAya[大阪府]
水泳の飛び込み選手を捉えた写真と、飛び込みを楽しむ人々を撮影した映像を展示。改めて見比べると選手と一般人の差は歴然だが、もちろん本展の目的はそんなことではない。人間が重力から解き放たれる一瞬を記録し、躍動する肉体の美しさや嬉々としてダイブに興じる人間の感情を定着させることがテーマなのだ。時に半身のみを狙うなどトリミングも効果的で、点数こそ少ないが印象に残る個展となった。惜しいのは会期が短いこと。若手対象の特別企画とはいえ、5日間というのはさすがに辛い。
2009/07/02(木)(小吹隆文)
川端朗子 展 Mixed colors
会期:2009/07/06~2009/07/18
信濃橋画廊 apron[大阪府]
絵具の塊を紙の上に何重にも盛り、紙を傾けるなどして垂らした川端朗子の絵画作品。こうした制作法は決して新奇ではないし、同様の作品を過去に見た記憶もある。なのに彼女の作品が鮮烈な印象を残すのは何故だろう。色遣いの上手さや余白の生かし方といった技術面もあるのだろうが、その外連味のなさが見る者の心を打つというのが案外正解かもしれない。アール・ブリュットの優品に初めて出合った時と同種の感動を受けた。
2009/07/06(月)(小吹隆文)