artscapeレビュー
2009年08月01日号のレビュー/プレビュー
中井恒夫─東京 原爆─
会期:2009/07/13~2009/08/01
秋山画廊[東京都]
原爆をモチーフとした映像インスタレーション。東京の地図を床面に、爆発する原爆を壁面に、それぞれ投影することで、東京が被爆するイメージを見せた。ただ爆発の映像描写が凡庸であったせいか、あるいは「東京」という記号が弱かったせいか、原爆が東京で爆発するという衝撃が十分伝わっていないように思えた。原爆のイメージを取り扱うアーティストが忘れてはならないのは、わたしたちの想像力には、ハリウッド映画などによって世界が滅びるイメージが、すでに何重にも書き込まれてしまっているという大前提ではないだろうか。
2009/07/16(木)(福住廉)
山下洋輔トリオ復活祭
会期:2009/07/19
日比谷野外音楽堂[東京都]
山下洋輔のトリオ結成40周年を記念したライブ。ピアノの山下を縦軸に、ドラムの小山彰太、森山威男、テナーサックスの中村誠一、菊地成孔、アルトサックスの坂田明、林栄一、ベースの國仲勝男が、司会の相倉久人の進行のもと、入れ代わり立ち代わり登場する構成。彼らの協演に、大半が中高年で占められた観客は大いに盛り上がったが、なかでも突出して会場を沸かせたのが坂田明と森山威男。坂田はサックスの途中で突如として「ハナモゲラ語」による絶叫節を歌い上げ、観客一人ひとりの心底を鋭く突くほどの力強いドラムを見せた森山は、会場の気分が最高潮に達する直前、まさかのエアードラムを入れて、みんなを「あっ」といわせた。演者と観客が相互に向き合うことで場の空気を盛り上げていくという、フリージャズの醍醐味を「これでもか!」とばかりに実感させる、じつに幸福感に満ちたライブだった。
2009/07/19(日)(福住廉)
金魚(鈴木ユキオ)『言葉の縁(へり)』
会期:2009/07/24~2009/07/26
シアタートラム[東京都]
90分、息つく間もないテンション。鈴木ダンスの到達点を見た。彼の暮らす藤野の森のような静寂(トム・ウェイツが冒頭曲)は、同時に社会から隔絶された野性的な世界で(大きな枝やカモシカの角が効果的に舞台を飾る)、暴力に満ちている。荒涼として美しく、官能性に満ちた舞台。「官能性」とは、目が合えば衝突してしまう男たちや足を拡げて身を沈める女たちの仕草などに不意に薫るというだけではなく(それはそれで繊細でありとても美しいのだけれど)、徹底的に鈴木の振り付けをダンサー全員が身体化しているという至極ダンス的な事態から醸し出されているものなのである。ダンサーを鍛えるとは、こうしたことなのだろう。身体が振りを結晶させる媒体となって、みずからを殺す。そこに生命が煌めく。言葉が内と外を結ぶ道具だとすれば、その縁はやはり内を外と繋ぐ道具である身体と接触しているに違いなく、鈴木はきっとその接触をとらえようとこのタイトルを作品につけたのだろう。まさしくその接触の瞬間がこの作品に起こったかは定かではないけれども、身体が内を外と繋ぐときに起こるそのひりひりとした感覚は存分に味わうことができた。
2009/07/24(金)(木村覚)
手塚夏子『人間ラジオ2』
会期:2009/07/25~2009/07/26
die pratze[東京都]
超難解、なのに見続けてしまう。手塚夏子が主催する「実験ユニット」の第3弾、音楽家・スズキクリとの即興公演。「チューニングを調整する、その調整することそのものの中に異様にダンスを感じる。音楽を感じる」(プログラムより)のがテーマ。「チューニング」とは外のものと自分との関係を意識することらしい。確かに、椅子が2脚あるだけのきわめてシンプルな舞台で、座ったり歩いたりする手塚の身体は、表現するというより感じる身体に映る。シンプルな動きのなかに微細な切断が含まれている気がする。「切断」に見えるところに「チューニング」の作業がなされているようだ。ただし「チューニング」といっても合わせることが目標ではい。むしろ「調整する」作業それ自体が舞台の時間をつくる。「あれかな?」「これかな?」と、スズキクリも幾台かの小型ラジオを抱えて何度も置き直す。「超難解」さは、2人が何をどう調整しようとしているのか判然としないところに原因がある。いま「あれかな?」「これかな?」と書いてみたけれど、そこでの「あれ」や「これ」が何なのかが見る者に理解が及ばないのである。しかし、それにもかかわらず、見る者は放って置けず、見ないことができない。こうした手塚の「身体とは一体何者なのか?」という問いは、身体を「キャラ化」して自己の媒体としか受けとめようとしない今日的身体観の主潮流と対比すれば絶対に劣勢なのだけれど、そうであるだけにとても貴重で、今後、見過ごされた身体を丁寧に反省しようとの気運が盛り上がったときには重要になってくる仕事となるだろう。
2009/07/25(土)(木村覚)
Monochrome Circus+じゅんじゅんScience『D_E_S_K』
会期:2009/07/20~2009/07/26
こまばアゴラ劇場[東京都]
関西を中心に活動するMonochrome Circusと元「水と油」で活動していたじゅんじゅんがテーブルをテーマに4本の作品を上演。ぼくが見たのはその内の3本、その内の2本について。
『まざはし』(振付・演出:坂本公成)は、100本程の食事用ナイフが載ったテーブルがあり、その上に女がその下に男がいて踊る作品。どうしても(どういうわけか)机の外に出られず板に頭を押し付けて逡巡する男に、アズキ色の薄地ワンピースの女は基本的に無頓着。女が蹴り飛ばし床に散らばるナイフは、両者の関係を淡く彩る。けれど、強く惹きつける何かは出てこない。鴻池朋子の絵画世界に似て非なる感じ。変身があったら、物語が寓話へと転換したらどうなるかと思って見ていた。
『deskwork』(じゅんじゅん)は、彼の技であるパントマイムを用い、黒い床に照明がつくる四角をテーブルに見立てる。「騙される」ところにパントマイムの魅力はある。そのトリックに溺れたい見る者の欲求をもっと叶えて欲しかった。〈あるもの〉から〈ないもの〉を見みせるマイムの〈ないもの〉を生み出すために身体を拘束する構造がきわだってきたら、マイムともダンスとも演劇ともいえないなんともユニークな方法が生まれるはずで、きっとそこに目標はあるに違いなく、そのためにこそ騙しのテクを徹底的な仕方で示して欲しかった。
2009/07/26(日)(木村覚)