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鉄道遺構・再発見 Rediscovery──A Legacy of Railway Infrastructure

2015年11月01日号

会期:2015/08/27~2015/11/21

LIXILギャラリー1[東京都]

1990年から文化庁により幕末から第二次世界大戦前までの産業・交通・土木を対象に「近代化遺産」の調査が始まり、93年には本展でも紹介されている群馬県の碓氷峠鉄道施設と秋田県の藤倉水源地水道施設が重要文化財として初めての指定を受けている。以来、日本の近代化を支えてきた構造物の保存活動はかなり市民権を得てきたのではないだろうか。本展はそれら近代化遺産のなかでも、産業構造の変化、自動車輸送への転換によってその用を失った鉄道の遺構に焦点を当てた企画展である。廃線探訪は鉄道趣味の1ジャンルとして確立した地位を占めている。古地図にあたり、廃線になったり線路が付け替えられた跡を調べ、現地を訪ねて道路や宅地になった線路跡を歩き、駅舎や橋梁などの遺構を探す。こうした趣味のホームページはネットを探すとたくさんヒットする。鉄道の盛衰はその地方の産業の盛衰と軌を一にしている。廃墟趣味とはまた違い、鉄路の跡は歴史の証人であり、人々のノスタルジーの感情をかきたてるものがある。「鉄道遺構・再発見」はそうした廃線探訪の楽しみも包含しつつ、遺構が文化的な資源として再活用されている事例を紹介している。とくに大きく取り上げられているのはかつて高知県にあった魚梁瀬森林鉄道の遺構である。1911年に開通したこの森林鉄道は1963年に廃止されるまで、山で伐採した木材を輸送するほか、林業に従事する人びとやその家族たちの交通手段としても利用されてきた。各所に線路跡が残されているほか、橋梁やトンネルは道路に転用されて現役のインフラとして活用されている。また1988年に森林鉄道にかかわりのあった人たちなどによって「森林鉄道を語る会」が開催されて以来、村おこし事業として機関車や客車を復元して走らせるなどの活動が行なわれ、観光資源としての活用が模索されてきたという。このほか、鉱山の盛衰と橋梁技術の多様性を証言する栃木県の足尾線、横浜港・横浜駅の歴史とともに変化し現在は遊歩道になっている横浜臨港線跡、ワイン貯蔵庫として利用されている中央線・深沢トンネル跡など、他の鉄道遺構の保存、活用の手引きとなろう事例が多数紹介されている。[新川徳彦]

2015/10/20(火)(SYNK)

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