2018年07月15日号
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artscapeレビュー

三軒茶屋 三角地帯 考現学

2016年04月01日号

会期:2016/01/30~2016/02/28

世田谷文化生活情報センター 生活工房[東京都]

世田谷通りと国道246号線に挟まれた三軒茶屋のデルタ地帯、通称・三角地帯。極小の飲食店やアーケード商店街、銭湯などがひしめき、それらのあいだを細かい路地が縫うように走っている。再開発が進められている周囲の街並みとは対照的に、この一帯だけ昭和で時間が止まったかのようだ。
本展は、この「三角地帯」をフィールドにした考現学的調査の結果を報告したもの。考現学とは、今和次郎らによって実践された都市風俗の観察と記録の活動で、それらの結果を手書きのイラストレーションや図表、テキストによってレポートした。本展もまた、そのようなメディアを用いている点では考現学と変わらない。けれども考現学と大きく異なっているのは、その調査のテーマ。通行人の歩行経路をはじめ、呑み屋で提供されるビールの銘柄やお通しの種別、スナックで歌われるカラオケの曲目など、それらの大半は知られざる呑み屋街の生態を解き明かすものだ。その点では、入りにくい居酒屋の内側にテレビカメラを向ける「街レポ」に近い。あるいは、それらの調査が調査主体の経験に裏づけられている点で言えば、「考現学」というより、むしろ「体験記」というほうが適切かもしれない。三角地帯の中だけでタオルや下着などを調達して千代の湯に入る、しまおまほによるテキストも、まぎれもなく「体験記」である。
だが、今和次郎らによる考現学は明らかに「体験記」ではなかったし、「街レポ」でもなかった。それは、こう言ってよければ、きわめて変態的な調査だった。丸の内のOLが昼休みにどのように行動するのか、彼女たちを尾行して経路を記録したり、井の頭公園での自殺者の分布図を整理したり、考現学の特徴は観察と記録よりもむしろ調査の主題の独自性にあった。平たく言えば、誰も見向きもしないような主題を馬鹿正直に追究することによって都市風俗の生々しい一面を浮き彫りにするところに考現学の真髄があったのだ。
「考現学」を冠した本展は、そのような意味での変態性に乏しく、きわめて常識的であり、それゆえ考現学が持ちえていた芸術性を見出すことはできなかった。おそらくテレビや雑誌などのマスメディアで消費されるコンテンツとしては十分なのだろうが、それは芸術的な価値とは本来的に関係がない。

2016/02/22(月)(福住廉)

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