2018年10月15日号
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artscapeレビュー

イキウメ『散歩する侵略者』

2017年12月15日号

会期:2017/10/27~2017/ 11/19

シアタートラム[東京都]

『散歩する侵略者』は2005年初演のイキウメの代表作。この秋には黒沢清監督により長澤まさみと松田龍平の主演で映画化もされ、今回はイキウメとしては3度めの再演となる。すでに十分な人気と実力を兼ね備えるイキウメだが、近作ではますます充実した活動を展開している。この5-6月に上演された『天の敵』では舞台上に複数の時空間を配置する作・演出の前川知大の手つきが冴えわたり、俳優たちもそれに十二分に応える好演を見せた。このタイミングでの代表作『散歩する侵略者』の再演は、劇団としての継続的な活動の成果を反映し、傑作の再演に向けられた期待を大きく上回る舞台となった。

物語は数日間行方不明だったある男(浜田信也)が戻ってくるところからはじまる。まるで別人のようになってしまった夫に戸惑う妻(内田慈)。やがて夫は告げる。実は自分は地球を侵略しに来た宇宙人なのだと。折しも街では特定の概念が理解できなくなる奇病が流行。それは彼ら宇宙人が「概念」を収奪した結果だった──。

今回の再演では、夫婦の再生、国と個人との対立などさまざまな要素が詰め込まれた作品の、また新たな側面が浮かび上がって見えた。再演の度に発見があるのが傑作の傑作たるゆえんだろう。

舞台となる「日本海に面した小さな港町」は「同盟国の大規模な基地がある戦略的に重要な土地」であるとされ、物語の背景には隣国との軍事的な緊張の高まりがある。図らずも2017年の現在を反映したかのような再演となったわけだが、真にアクチュアルな意味を獲得してしまったのはむしろ、「概念」の収奪という設定の方だ。

言葉の意味が骨抜きにされるとき、社会はその成立基盤から揺らいでいく。地面に大きく亀裂が入った舞台美術(土岐研一)は東日本大震災後の日本を思わせると同時に、今まさに足元に広がりつつある裂け目をも可視化していた。見える世界、拠って立つ場所の違いが生む断絶は深刻だ。ラストシーンの二人の「すれ違い」はまったくもって他人事ではない。


イキウメ『散歩する侵略者』
左から浜田信也、安井順平
撮影:田中亜紀
公式サイト:http://www.ikiume.jp/

2017/11/08(水)(山﨑健太)

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