artscapeレビュー

Lily Shu「ABSCURA_04」

2017年12月15日号

会期:2017/11/29~2017/12/10

72 Gallery[東京都]

Lily Shu(周浩)は1988年、中国・ハルピン生まれ。埼玉大学、イギリスのケント大学などで芸術論を学び、現在は東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科に在学中である。イギリス滞在中から、時間や記憶をテーマとする映像表現を試みていたが、このところ急速に写真に対する関心を深め、第33回東川町国際写真フェスティバルの「赤レンガ公開ポートフォリオオーディション2017」でグランプリを受賞したことが、本展の開催に結びついた。
タイトルの「ABSCURA」というのはShuの造語で、「abstract(抽象)」と、もともとは「部屋」という意味を持つ「obscura」(camera obscuraは写真機の前身)を合体した言葉だという。撮影されているのは、彼女が「東京でひとり暮らすアパート」の「20平米足らずの空間」の中で起こった出来事の断片であり、そこには中国からやって来て短期間同居していた両親、「親密な他者」、そして自分自身の身体の一部などが写り込んでいる。それらのかなり生々しい感触の画像と、素っ気なく抽象化して撮影された「04号室」のインテリアの画像とが絡み合い、衝突しあって、まさに物質化した記憶の集積としか言いようのない写真群が生み出されてくる。ユニークな経歴と世界観を持つ写真家のデビューにふさわしい、初々しさとスケール感を両方とも兼ね備えたとてもいい展示だった。あたかも母親の胎内を思わせるこの小さな部屋から、彼女がどんな風に外に出て歩み続けていくのか、次の展開がとても楽しみだ。

2017/11/29(水)(飯沢耕太郎)

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