2018年04月15日号
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artscapeレビュー

庭劇団ペニノ「地獄谷温泉 無明ノ宿」

2017年12月15日号

会期:2017/11/04~2017/11/12

KAAT 神奈川芸術劇場[神奈川県]

じつは第60回岸田國士戯曲賞を受賞した後、書籍をぱらぱらめくったときは、あまりピンとこなかった作品だが、本物の演劇は凄まじいものだった。山里の、家主がいない、ひなびた宿で、それぞれ何かが欠けた人物たちが交差する、異様な一夜を恐るべき実在感で演劇化していたからである。東京からやってきた人形遣いの謎の親子(小人症の父と母がいない息子)をはじめとして、目が不自由な男、言葉を発しない宿の三助、そして疑似家族的な老女と年が離れた2人組の芸妓など、あまりにシュールな設定に思われるのだが、確かに彼らはここにいると感じさせる演技だった。つまり、舞台では演劇という形式でしか立ち現われないものが表現されており、それは脚本を読む行為とは別物である。筆者が観劇した国内最終公演では、息子役の俳優が体調不良につき、代役を立てていたことを考えると、本来のメンバーならば、さらに迫力を増していたのだろう。ともあれ、父役を演じるマメ山田は、当て書きの脚本であり、彼以外の配役を想像しがたい。

物語が進行していくと、親子は言いしれぬ闇を抱えていることがうかがえ、彼らの子どもの人形による劇もあまりに不気味なもので、不穏な雰囲気が漂うなか、朝を迎えるまでに決定的な事件が起きるのではないかという緊張感を観客に強いる。さて、建築の立場からは、四場面(宿の玄関、上下の部屋、脱衣場、浴場)を体験できる回り舞台が素晴らしい。これは単に素早く場面の数を増やす装置というだけではなく、部屋から部屋への移動によって空間的な連鎖が巧みに演出されていた。そして温泉で本当に役者たちが裸になって入浴するシーンも忘れがたい。まさに裸で勝負する本気の舞台であることにあっけにとられた。公演は海外にもっていった後、舞台装置を解体するらしい。小人症の俳優が必要であることに加え、大がかりなセットだけに、将来の再演が難しそうな怪作である。

2017/11/07(火)(五十嵐太郎)

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