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ノエル・キャロル、森功次訳『批評について──芸術批評の哲学』

2018年02月01日号

発行所:勁草書房

発行日:2017/12/01

アメリカの分析美学者、ノエル・キャロルによる「批評の哲学」。表題のテーマについて著者がとるスタンスは明快であり、それによれば芸術批評の主たる目的は「理由にもとづいた価値づけ(reasoned evaluation)」にこそあるという。よって、批評が行なうそれ以外の取り組み、すなわち記述、分類、解釈、分析などはあくまでも上記の「価値づけ」を補助するものであり、「作業の階層としては下に位置する」とすら言われる。

全体にわたり理路整然と書かれたその筆致とは裏腹に、これはきわめて挑発的なテーゼであるように思われる。第一に、著者自身も「はじめに」で述べているように、これは明らかに規範的なテーゼであるからだ。規範的、ということを言いかえれば、著者はここで「批評とは理由にもとづいた価値づけであるべきだ」という「強い」主張を行なっているということである。同書は過去の主要な批評理論を紹介したり、「批評とは何か」という問いをめぐる概説的な議論を提供するものではなく、あくまでも著者キャロルが考える前述のテーゼを証明することに捧げられている。

とはいえ、批評が「理由にもとづいた価値づけ」であるという主張そのものは、ともすれば自明の事実であると思われるかもしれない。しかし現実にはそうではないのだ。キャロルも随処で述べているように、現代の(専門的な)批評家たちは、そのような「価値づけ」としての批評をむしろ忌避し、著者が「補助的なもの」とみなす「記述、分類、解釈、分析」こそを、しばしばみずからの批評の主眼とみなしてきたからである。本書のテーゼが挑発的であると思われる第二の、より本質的な理由はまさにこの点にこそ見いだされる(なお、「批評」を「非難」と混同する人々は英語圏にも少なからずいるようで、第1章ではあらかじめそのような混同に注意が促されている)。

私見では、近代以降の日本語における「批評」という言葉/営為には英語の「criticism」には収まらない豊潤な歴史があり、その点で本書の議論が日本語の「批評」にそのまま適用可能であるとは思われない。しかしそうした文化的特殊例の問題を脇に置けば、「批評=理由にもとづいた価値づけ」という本書の証明の手続きはおおむね説得的である。何よりその「強い」主張を通じて、従来の批評のあり方を相対化するその手腕こそが、本書の最大の美点であると言えるだろう。

2018/01/22(月)(星野太)

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