artscapeレビュー

2010年02月15日号のレビュー/プレビュー

「現代若者の眼力(めぢから)」展

会期:2010/01/12~2010/02/27

ビジュアルアーツギャラリー[東京都]

山梨県北杜市高根町の清里フォトアートミュージアムでは、毎年35歳以下の若い写真家たちの作品を購入・展示する「ヤング・ポートフォリオ」の企画を実施してきた。本展はその収蔵作品から、石井仁志(書誌学、写真史研究)がプロデュースした選抜展である。同時に早稲田大学26号館10階125記念展示室でも「占領期雑誌フォトスvs.現代若者の眼力」展が開催されており、両会場あわせて30作家130点の作品が展示された。また関連企画としてワセダギャラリーとビジュアルアーツギャラリーでは「この壁を飾るのは誰、この台上を埋めるのは君」と題して、選抜作家と早稲田大学写真部、東京ビジュアルアーツ写真家学生による展覧会も開催されていた。
有元伸也、北野謙、中藤毅彦、佐藤信太郎、山下豊,劉敏史といった力のある日本人写真家たちに加えて、なかなか作品を見ることのできない同世代の外国人写真家たちの展示をまとめて見ることができたのが、まずは大きな収穫といえるだろう。G・M・B・アカシュ(バングラデシュ)、チョン・ミンス、オ・ソクソン(以上、韓国)、ラファル・ミラフ(ポーランド)パトリック・パリア・ベッカー(ドイツ)といった各国の若手作家たちは、今後それぞれの国の写真界を担っていくはずの逸材ぞろいで、作品はなかなか見応えがあった。このシリーズを撮影した直後に急死した、内野雅文の遺作《KYOTO》が展示されていたのも感慨深かった。清里フォトアートミュージアムはあまり地の利がよくないので、このような企画はとてもありがたい。今後はもう少しテーマを絞り込んで、各写真家の作風がくっきり浮かび上がるような構成にしていくといいのではないだろうか。

2010/01/25(月)(飯沢耕太郎)

建築家の読書術

会期:2010/01/26~2010/02/06

ギャラリー・間[東京都]

中村拓志、中山英之、平田晃久、藤本壮介、吉村靖孝という5人の建築家がそれぞれ20冊の本を挙げ、読書術を披露するといういわば珍しいタイプの展覧会。統括は建築史家の倉方俊輔。3階の会場には一冊ずつ本が置かれた椅子が並べられる。まず展覧会のヴァリエーションを広げる試みとして面白い。そして、実際の建築物や模型を見る以上に、建築家の思考の裏側が見えてくるような試みでもある。統括の倉方氏に聞いたところ、10冊くらいだと流行りの本や名著でごまかすことができる、でも20冊だとその建築家の本質が見えてくるということだった。確かに20冊をもって何かを語るというのは結構難しい。いわば難問である。しかし、同時期に連続して開催された連続レクチャーにより、20冊のセレクト意図などが各建築家により明らかにされていったという。面白いのは、全体として本は2冊ほどしか重なっていなかったらしいが、いくつか共通のラインが見えてくるところである。例えば吉村はユクスキュルの『生物から見た世界』を挙げたが、中村はその訳者である動物行動学者の日高敏隆の『人間はどういう動物か』を挙げ、さらに平田は日高の弟子筋である小原嘉明の『モンシロチョウの結婚指輪』を挙げる。建築とまったく関係ないはずの分野で隠れた共通項が見えてくるのは面白い。そういえば以前、建築家がそれぞれ映画について語るという特集が『Detail Japan』でもあった。建築家に作品以外の部分から焦点が当てられた好展覧会だといえよう。

2010/01/26(火)(松田達)

古田直人「あぶない 左右見てから」

会期:2010/01/26~2010/01/31

企画ギャラリー・明るい部屋[東京都]

新宿区須賀町の企画ギャラリー・明るい部屋では、時々何とも不思議な写真家の仕事を見ることができる。写真専門のギャラリーでの展示ははじめてという古田直人もそんな一人。会場に入ると壁、床にびっしりとプリントした写真が貼られ、靴を脱いで鑑賞するようになっている。「写真風呂」に入るような感触が、妙になまぬるくて、気持がいいような悪いような雰囲気だ。写真のほとんどは出合い頭の路上スナップだが、そのタイミングが微妙にずれていて、それもどこか居心地の悪い感じを与える。しかも壁に貼られた写真には、びっしりと細かな文字が書き込んである。電話帳から書き抜いたという人の名前、住んでいる秩父周辺の駅の名前、そこから派生したという「陰核」「目過」「大血沢」といった奇妙な単語。なぜ写真とこれらの文字が関連づけられているのかはよくわからない。だが、どこか呪術的な行為のようにも見えてくる。写真と呪いと笑いが複雑に屈折しながら結びついているのだ。
こういう若い写真家の仕事は、ともすれば長く続かず、いつのまにか消えてしまうことも多い。古田もそうなる可能性があるが、僕は彼には潜在的なパワーがあるように思える。今のところ、コピー用紙にあまり精度のよくないプリンターでプリントした作品が中心なので、チープさが目立ちすぎて落着きが悪い。ねじ曲がった発想の回路を、もっとうまく形にできる方法論が見つかれば、飛躍的に作品の質が上がってくるのではないだろうか。

2010/01/26(火)(飯沢耕太郎)

能面・能装束展

会期:2010/01/02~2010/03/14

大倉集古館[東京都]

『東京人』の取材で久しぶりに訪れる。能にも装束にも興味ないのだが、唯一おもしろかったのは、面の裏側(内側)の写真も展示されてること。銘が書かれているからだが、内側からみると女も般若もみんな目が点になってる。これを見て思い出したのが、能面の表面を削ってマヌケ面にしてしまう青田真也の作品。

2010/01/26(火)

artscapeレビュー /relation/e_00007227.json s 1212200

糸川知佐 展「99と私」

会期:2010/01/26~2010/01/31

アートスペース虹[京都府]

会場のテーブルには卵くらいの大きさの布製のオブジェが100個展示されていた。一つひとつに《ゴディバ》《モンゴル》など、それぞれのキャラクターを示すネーミングが付けられている。カタログ式の表を見ながら手にとると、なんとも愉快な気分になってくる。モチーフ自体どれもユニークなのだが、模様や色、素材の組み合わせだけで表された名前も多く想像を掻き立てる。一方、滞在制作をする会期中徐々に増えていく壁面のドローイングにはタイトルがなかった。一見、まったく脈絡のつかめない奇妙でひょうきんなモチーフの組み合わせと構図がシュールなのだが、本人の思い描くイメージはしっかりとあり、聞いてみるときちんとつじつまがあう物語として描かれているのが面白い。繊細な線と美しい色も魅力的だ。

2010/01/26(火)

2010年02月15日号の
artscapeレビュー