artscapeレビュー
シャルダン展──静寂の巨匠
2012年11月15日号
会期:2012/09/08~2013/01/06
三菱一号館美術館[東京都]
絵画の黄金時代17世紀と近代の幕開け19世紀にはさまれた18世紀は、美術史的にはどうもあまりパッとしない。そのパッとしない時代にひっそりと咲いた花がシャルダンだ……。程度の認識しかなかった。シャルダンもフェルメールと同じように死後しばらく忘れられ、19世紀なかばに再発見されたという。しかも闇のなかから発掘したのがフェルメールを再評価したトレ・ビュルガーだったというのもうなずける。どちらも風俗画で名をなした庶民の味方だからね。でもシャルダンは静物画も多く残していて、今回は個人コレクションのため非公開だった《木いちごの籠》も来ている。赤い木いちごが山盛りに盛られた抽象度の高い作品だ。後半、シャルダンの影響を受けたとおぼしきミレー、ルドン、セザンヌらの作品も展示されていてちょっと首を傾げたが、なるほど《木いちごの籠》を見るとセザンヌが影響を受けた理由がわかる。セザンヌは「自然を円筒形、球形、円錐によって扱い……」と述べたが、この絵にはちゃんとグラスが円筒形、スモモとサクランボが球形、そして山盛りの木いちごが円錐形に描かれているのだ。それだけでなく、グラスの口が底面よりやや開いた楕円形に描かれているのもセザンヌを彷彿させる。どうやらフェルメール─シャルダン─セザンヌをつなぐ美術史の隠れた線が浮かび上がってきたぞ。これは発見!
2012/10/19(金)(村田真)