artscapeレビュー

サウダーヂ

2012年11月15日号

仙台にて、念願の『サウダーヂ』を見る。日本人、ブラジル人、タイ人、政治家、金持ち、労働者、ラッパーなど、シャッター街となった甲府の町をうごめくさまざまなトライブがゆるやかに連鎖する群像である。彼らは、もはや存在しない故郷/過去に憧れながら(=サウダーヂ)、多国籍化した地方都市でリアルに生きていく。まるでドキュメンタリーのような登場人物たちの実在感が半端ではない。『サウダーヂ』は、富田監督の前作『国道20号線』からより進化し、保守的な景観論者が目をそむける現実を描く。数千以上の卒業設計を見たが、こうした世界を扱う建築学生を見たことがない。実際、映画のなかで語られる「建築家」は、政治家と同様、虚飾の象徴として言及される。逆に大地を掘る土方はルーツの探求を意味する。以前、アップリンクで富田克也監督と「ヤンキー講座・ミレニアム」のトークショーを行なった。そのとき彼が、過去20年間に変容したヤンキーの資料映像を編集した作品は面白かった。古きよきヤンキーも、サウダーヂの対象である。鷹野毅が深夜の商店街で幻視したように。富田にとっての甲府もそうなのだろう。

2012/10/29(月)(五十嵐太郎)

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