artscapeレビュー
中島宏章「黄昏ドラマチック」
2012年11月15日号
会期:2012/09/28~2012/10/04
富士フイルムフォトサロン 東京[東京都]
札幌在住の中島宏章は、2010年の第3回田淵行男賞の受賞作家。そのとき、山岳写真と昆虫写真の偉大な先達の業績を讃えるこの賞の審査にはじめて参加したのだが、ネーチャー・フォトの世界にも確実に新たな胎動が芽生えはじめていることを感じた。1990年代以来のデジタル化の進行によって、まず技術的なレベルが格段に上がっている。中島のコウモリの写真も、シャープなピント、鮮やかな色彩と明快な構図、見事な連続瞬間撮影など、以前には難しかった表現のレベルをいとも簡単にクリアーしていた。さらに単なるコウモリの生態記録というだけでなく、それをより大きな人間や自然との関係のなかでとらえた「物語」として見せようとする視点が新鮮だった。
今回の富士フイルムフォトサロンの展示は、その田淵行男賞受賞作をベースとして、野生化した犬、猫、エゾシカ、シマヘビ、カラスアゲハ、ハエトリグモなど、個性的な脇役を配して北海道の自然環境を総合的に捉えようとする意欲作である。そのことで、逆に主役であるコテングコウモリやヤマコウモリの影がやや薄くなってしまったということがある。だが、その多彩で魅力的な写真の広がりを充分に愉しむことができた。中島には『BAT TRIP~ぼくはコウモリ』(北海道新聞社、2011)、『コテングコウモリを紹介します』(『たくさんのふしぎ』2012年3月号、福音館書店)といった著書もある。岩合光昭、星野道夫、今森光彦らの自然写真の成果を受け継ぎつつ発展させていく、次世代の表現領域の開拓を期待したいものだ。
2012/09/04(火)(飯沢耕太郎)