artscapeレビュー
眞田岳彦ディレクション/作品「ウールの衣服展──源流から現在」
2014年04月01日号
会期:2014/01/24~2014/03/25
神戸ファッション美術館[兵庫県]
ウールは獣の毛である。編むでも織るでもなくして、繊維を絡み合わせるだけで布(フェルト)になる。
眞田岳彦の作品において、フェルトはもっとも重要な素材のひとつである。本展も、代表作の《聴く/話す》をはじめフェルトによる作品を中心に構成されている。作品はいずれも人の背丈を超えるような規模の大きさで、フェルトはその量感と質感をもって見る者に迫ってくる。
かつてヨーゼフ・ボイスは、フェルトと脂肪をもって立体作品とした。戦時中ボイスがフェルトと脂肪によって生命を救われたという逸話はあまりにも有名だ。ボイスの作品ではフェルトは体温を保ち生命を守るものであって、獣とヒトをつなぐものだった。そして、彼の作品を前にして、見る者とフェルトの塊の間に立ち現われるのは神話めいた物語だった。眞田の場合、それは衣服である。彼は自ら「衣服造形家」を名乗る。自らの作品を「コンセプチュアル・クロージング(考える衣服)」と位置づけて作家の思想を最優先させた衣服と規定し、その役割は「人の心を開き、人を育む」ことにあるという 。なるほど、ボイスの作品ではフェルトはじっとりと脂をふくみ熱を蓄えて重く沈むのに対して、眞田の作品の、なかに空気を含んで立ち上がったり浮き上がったりしているフェルトには素朴さと広がりがある。それは痛みや凍えといった個人の身体的経験ではなく、地球上どこの国にもどこの地域にもあるようなヒトの営みの表われであり、そこにはおおらかでゆるぎない作者の目線が感じられる。
本展のもうひとつの見どころは、神戸ファッション美術館所蔵品を中心としたウールを用いた古今東西の衣服の数々。6世紀のコプト織のチュニックから現代の著名デザイナーによるファッションまで、さまざまな衣服の展示にはヒトがウールという素材に託してきた身体を守り飾ることへの飽くなき欲望を思い知らされる。そして、神戸ファッション美術館でなくては実現しえなかったであろう展示には、その力量を再確認する思いがした。[平光睦子]
2014/02/28(金)(SYNK)