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のぞいてびっくり江戸絵画──科学の眼、視覚のふしぎ

2014年04月01日号

会期:2014/03/29~2014/05/11

サントリー美術館[東京都]

徳川八代将軍吉宗が、享保5(1720)年に漢訳洋書の輸入規制を緩和した結果、西洋の科学・技術・文化を研究する「蘭学」が盛んとなった。もたらされたのは書物ばかりではない。顕微鏡や望遠鏡といった光学装置が海外から輸入された。こうした新しい知識や異国の装置が江戸期の日本に新しい視覚体験と絵画表現とをもたらしたことは、イギリス人研究者タイモン・スクリーチによって明らかにされてきた。この展覧会はスクリーチの『大江戸視覚革命』(作品社、1998)をベースに、五つの視点から江戸時代後期の新しい視覚文化を紹介するものである。
 第1章は遠近法。奥村政信、歌川豊春、葛飾北斎、歌川広重らが透視図法を用いて描いた「浮絵」、風景画をレンズを通して立体的に見せる「眼鏡絵」、洋風の表現と図法を取り入れた「秋田蘭画」が紹介されている。第2章は鳥の眼。名所や神社仏閣を俯瞰して描く手法は古くから行なわれていたが、遠近法の導入によってより正確な鳥瞰図が描かれるようになった。西洋からもたらされた望遠鏡は18世紀には一般にも普及して見世物の道具としても利用された様子は、浮世絵にも描かれている。第3章は顕微鏡。オランダで発明された顕微鏡は18世紀半ばに日本にもたらされる。顕微鏡を使用して観察された蚤や蚊などの虫の拡大図が描かれたり[写真1]、雪の結晶が衣服の文様として流行するなどの影響をあたえた。第4章は博物学。西洋の博物学の影響で、絵画作品としてではなく、博物図譜としての絵画の登場が示される。第5章は光と影。障子に映るシルエットや、寄せ絵、円筒状の鏡に絵を映してみる「鞘絵」など、西洋の「トリックアート」の影響が紹介される。
 新しい科学・技術・文化に最初に触れたのはもちろん蘭学者と呼ばれた研究者たちであるが、興味深いのはそれらが江戸期の庶民の文化に影響していった点である。そのプロセスを担ったのは、絵画史の主流をなした人々ではなく、また「浮絵」や「眼鏡絵」は芸術というよりは「からくり」あるいは「見世物」であったと田中優子・法政大学教授は指摘している★1。同時に新しい視覚が博物学などの観察や記録を主とする学問に影響したことを考えれば、江戸期の西洋文化の受容層はいかに多様であったことか。そして西洋文化と科学的な知識の多様な受容層が、明治維新後の日本の発展の基礎となったのである★2
 3階会場には立版古(浮世絵を切り抜いて立体的に加工するもの)を拡大したものや、鞘絵を体験できる場が用意されており[写真2]、「遊びごころ」のある楽しい展覧会である。[新川徳彦]

★1──田中優子「江戸人たちの驚きの世界」本展図録、10頁。
★2──大石学「『江戸の科学力』──その政治的・社会的基盤」本展図録、186~187頁。



1──山田訥斎《蚤図》ほか


2──展示風景

2014/03/28(金)(SYNK)

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