artscapeレビュー

勅使川原三郎、佐東利穂子『ABSOLUTE ZERO 絶対零度2017』

2017年07月01日号

会期:2017/06/01~2017/06/04

世田谷パブリックシアター[東京都]

全体80分、真ん中のパート、勅使川原三郎はシンプルで静かなピアノ曲とともに踊った。その前までの硬質で速度のついた運動から一転、驚くほどゆっくりと垂れた腕が吊り上げられてゆく。早い動きは、勢いに任せていると見える時もあるし、「パタパタ」する手の痙攣的な振りとか、腕や首の振り回しが、望ましい速度になっているか否かを基準に見てしまいがち。それゆえにあまり集中できない。それに比べると遅い動きは見入ってしまう。早い動きが案外単調に見えるのとは対照的に、ゆっくりとした動きには、多くの「見えない動作」が伴っている。あらわれてはいないが、こっちではなく「あっちに進んだ際には生まれていただろう」動きが、感じられるのだ。その後、勅使川原は極端に力の入っていない体で踊った。硬質な運動を見せていた身体に、こんなにも柔弱な身体が隠されていたとは。勅使川原はこうして身体に充実を与える。その充実に観客は圧倒される。余計な物語性も、現代性も、社会性も寄せ付けず、ただ、充実した身体が次から次へと現れる。当日パンフに掲載された当館芸術監督である野村萬斎のテキストには「アブソルート・ゼロ=到達不可能なエントロピー“ゼロ”の完全な制止状態」との言葉があった。最後の場面で、勅使川原は両手を前で合わせ、首を少し下げた状態で、何分も静止(制止)した。両腕でできた「V」の字に光が当たる。それをじっと見る。マイケル・ジャクソンにもそんな「ゼロ」の妙技があったと記憶しているが、止まった身体の、じつに豊かな充実があらわれた。

2017/06/04(日)(木村覚)

2017年07月01日号の
artscapeレビュー