artscapeレビュー
野生展:飼いならされない感覚と思考
2017年12月15日号
会期:2017/10/20~2018/02/04
21_21 DESIGN SIGHT[東京都]
「野生的なものはエレガントである」。野生とエレガント。一見、相反する言葉にも思えるこの印象的なメッセージから始まる本展は、終始、野生とはいったい何なのかを私たちに突きつけてくる。思想家、人類学者、宗教学者である中沢新一が展覧会ディレクターを務めた本展は、大きく言えば、別名「南方熊楠展」とも言うべき内容であった。会場の前半では、明治時代に米国や英国に渡り、世界的に活躍した博物学者の南方熊楠を取り上げ、南方が後世に残した研究資料に基づいて野生を紐解いていく。中沢はこれまでに南方に関する著書を数多く執筆してきた。例えば偶然の域を超えた発見や発明、的中を南方は「やりあて」と呼んだことや、AとBの関係性でしかない「因果」という西洋思想に対し、AとB、C、D、E……とありとあらゆる事物がつながり合っている「縁起」という仏教思想に着眼したことなどを紹介する。それが人間の心(脳)に野生状態を取り戻すことになると。
後半では、さらに野生の捉え方を発展させていく。自然と人間とをつなぐ存在を「野生の化身」として、日本人はそれらを「かわいい」造形にする特異な才能を持っていたことを紹介する。「野生の化身」は縄文時代の土偶に始まり、現代の「ハローキティ」や「ケロちゃんコロちゃん」といったキャラクターにまでおよぶ。理由や理屈なく「かわいい」と思う心の赴き、それこそが野生なのだと言わんばかりに。
冒頭のメッセージで中沢は「まだ管理され尽くしていない、まだ飼いならされていない心の領域」を「野生の領域」と呼んだ。いま、世の中を見渡すと、野生とは真逆のAI(人工知能)の研究に熱心である。AIが人間の知能をはるかに超え、近い将来、人間の仕事の多くがAIに取って代わられるとも言われている。そんな時代だからこそ、中沢はあえて「野生の領域」の大切さを訴えたのではないか。つまりAIへのアンチテーゼである。人間が持ち、AIが持たざるもの、それは一言で言えば野生の感覚と思考なのだ。
2017/11/17(金)(杉江あこ)