artscapeレビュー
本を、つくってみた ─アーティストブックの制作と展示─
2017年12月15日号
会期:2017/11/28~2017/12/17
ギャラリーターンアラウンド[宮城県]
O JUNが企画した展覧会であり、約20名のアーティストが参加し、東京のナディフや仙台のギャラリーターンアラウンドなど、各地で作家を振り分けながら開催しているものだ。会場には、さまざまな解釈によるアートとしての本(棒状のオブジェに対し、ページのように、ひらひらと紙を加えるなど)や、本を用いた作品(オブジェを栞にしたり、2冊の本をかみ合わせるなど)が集まる。そしてオープニングにおける丸山常生のパフォーマンスは、ブックエンド、書物、床、ポストイットなどを使い、空間を書物化する試みだった。
トーク・イベントでは、筆者がせんだいスクール・オブ・デザインで制作した前衛的な装幀の雑誌『S-meme』の軌跡を話した後、O JUN氏と対話を行なう。興味深いのは、彼が大学院のときに筆者の恩師である横山正先生と夢の本をつくるプロジェクトがあったのを知ったこと(実現しなかったが)。なお、イベント時は床に写植のように、大量のチューブから絵の具を盛った水戸部七絵の二作品がばらばらに置かれていたが、トークの後、本来の位置に戻し、二枚の抽象画を左右に並べると、突然「本」に見えたのも印象的だった。このシンプルな形式性が、非本→本の閾値を超えるトリガーなのである。
懇親会の二次会で、アーティストブック展のカタログをデザイン+編集した小池俊起氏と製本を担当したanalogの菊地充洋氏と飲む。今回の攻めたカタログのデザインが『S-meme』の遺伝子を受け継ぎながら、より洗練されたものになったことを確認した。小池は学生のとき、楠見清のゼミで助手の斧澤未知子が持ってきた『S-meme』に出会ったという。なお、ちょうど『S-meme』は、ストックホルムのArkDesギャラリーにおいて、世界の建築・デザインの本や雑誌を紹介する展覧会「A Print Stockholm」で取り上げられている(https://arkdes.se/en/a-print-stockholm/)。
左=櫻胃園子、吉川尚哉ほかの作品 中=O JUN 右=水戸部七絵
2017/11/28(火)(五十嵐太郎)