artscapeレビュー
金刀比羅宮高橋由一館
2017年12月15日号
金刀比羅宮高橋由一館[香川県]
香川県一人旅。まずは高松空港から琴平へ。金刀比羅宮を初めて訪れた2000年、高橋由一の作品はまだ独立した館ではなく、風通しのいい学芸館てとこに人魚のミイラとか妖しげなものたちと一緒に展示されていた。閑散とした見世物小屋といった趣で、それはそれでなかなか風情があったが、このままだと作品が劣化しちゃうんじゃないかと不安も感じたものだ。と思っていたら、宮司の旧友でもあるアーティストの田窪恭治が文化顧問に就き、2004年の大遷座祭に向けて「琴平山再生計画」に着手。同じころ、由一に画塾設立の資金を融資した(その見返りに由一が作品を奉納したため、ここにたくさんある)当時の宮司を描いた肖像画《琴陵宥常像》も見つかり、これを含む計27点を常設展示する高橋由一館が建てられた次第。由一の絵ばかりが整然と並ぶさまはなかなか壮観だが、余計なもの(人魚のミイラみたいな)がなくて寂しい気もする。由一作品はけっこう日常的というか猥雑な環境が似合うのかもしれない。
所蔵作品の内訳は、風景画が最も多く15点、次いで静物画が《豆腐》など10点、肖像画は先の《琴陵宥常像》1点、風俗画は《左官》1点。風景画で特徴的なのは極端に横長の作品が多いこと。この地を訪れた際に描いた《琴平山遠望図》をはじめ、《愛宕望獄》《牧ヶ原望獄》《月下隅田川》《江之島図》《本牧海岸》《二見ヶ浦》《州崎》などがそう。特に《琴平》《愛宕》《牧ヶ原》の3点は左右端をぼかして描くことで、見る者の注意を画面中央に向けさせるテクニックを用いている。また、袋戸の小襖として描かれた《月下隅田川》は、薄明の隅田川の夜景を表現したもので、同時代のホイッスラーを思わせるモダンな作品。風景画ではこれがいちばん横長だが、静物画ではやはり小襖仕立ての《貝図》がさらに横長で、縦対横の割合が1対10以上。当時の日本家屋には絵を掛ける壁がなかったので、戸袋の襖に描いたのだろう。由一作品が美術館より世俗的な空間に合うのはそのためかもしれない。
2017/11/07(火)(村田真)