artscapeレビュー
星玄人「WHISTLE 口笛」
2017年12月15日号
会期:2017/11/28~2017/12/10
サードディストリクトギャラリー[東京都]
ストリート・スナップを撮影・発表している写真家はたくさんいるが、いま一番面白い仕事をしているのは星玄人ではないだろうか。アメリカのLITTLE BIG MAN社から同名の写真集が出版されたのを期して開催された彼の個展「WHISTLE 口笛」を見て、あらためてそう思った。
星は2007年に『街の火』(ガレリアQ)という写真集を刊行している。そこでも、新宿界隈を中心に撮影した凄みのある写真群を見ることができたのだが、その後モノクローム写真がカラーに変わったことで、より臨場感、客観性が強まり、ほかに類を見ない、独特のスナップショットが形をとってきた。何よりもそこに写っている、一癖も二癖もある人物たちの身振りや表情から滲み出てくる、不穏としか言いようのない雰囲気がただごとではない。星がカメラを向ける対象にはどこか共通性があり、真っ当な生のあり方から否応なしに外れてしまったような人物たちの気配を、鋭敏に嗅ぎあてているとしか思えない。とはいえ、彼らを突き放して見ているわけではなく、卑小さも、いかがわしさも、胡散臭さも全部ひっくるめて受け入れているのではないだろうか。そのような非情さと感情移入との絶妙なバランスが、彼の写真にはつねにあらわれていて、見る者の目を捉えて離さない不思議な魅力を発している。
スナップショットの面白さに取り憑かれてしまった星のような写真家は、これから先も、同じように路上を徘徊して撮り続けていくしかないのだろう。だが、今回ひとつの区切りがついたことで、新たな方向を見出して行くこともできそうな気がする。例えば、彼の写真の登場人物の一人にスポットを当てて、さらに深く撮り進めていくような仕事も見てみたいものだ。
2017/11/28(火)(飯沢耕太郎)