artscapeレビュー
インドの街並みと建築
2018年01月15日号
[インド]
およそ25年ぶりにインドを訪れた。現代の中国のように、劇的に風景が変わっているのではないかと思っていたが、街のバザールは相変わらず混沌としており、路上では各種の乗り物のほかに、象、馬、牛、犬、猿などの動物も見かけるし、少なくとも観光地の周辺はそれほど変わっていなかった。歩く人々がスマートフォンを持っていたり、地下鉄や公衆トイレが増えたり、人力のリクシャーに対してオートリクシャーの比率が少し増えたくらいか。新興のエリアは別の場所なのだろう。こうしたカオス的な空間にもかかわらず、建築のデザインはきわめて幾何学的である。
ニューデリーの都市計画は、20世紀初頭にイギリスが手がけ、整然とした軸線や円形のプランが支配している。とはいえ、信号や横断歩道がほとんどないため、使われ方は無茶苦茶だ。初日の午前にデリーで見学した建築群は特に美しかった。階段井戸のアグラセン・キ・バーオリーは、壁を抜けて足を踏み入れると、突如、地下に奥深く切り裂いた壮観な眺めが展開する。掘削による構築的な空間は、アジャンタやエローラの寺院に通じるが、宗教的な装飾やアイコンがない分、さらに抽象的である。なお、小さな穴に無数の鳩が棲みつき、動物にもやさしい建築なのだが、糞の直撃弾を食らい、ひどい目にあった。
ここニューデリーにある天文台ジャンタル・マンタルは、天文観測機械が巨大化し、建築的なスケールを獲得したものだが、その空間を人間が使えないため(大きな曲面はスケーターに格好の素材かもしれない)、巨大な抽象彫刻のようだ。類似例は他の都市でも見たことがあるが、ここはビル群と近接し、独特の幾何学が際立つ。周辺の近現代建築としては、マンディ・ハウス駅周辺のル・コルビュジエ的な形態語彙をもつ文化施設のほか、チャールズ・コレアの《ブリテッシュ・カウンシル》や、大屋根をもつ《ジーバン・バラティ・ビル》(補修中だった)、ラージ・レワルによる丹下風の《STCビル》(模型がポンピドゥー・センターのコレクションになっていた)などが挙げられる。いずれも乾いた幾何学を感じるデザインだった。
左:アグラセン・キ・バーオリー 右:ジャンタル・マンタル
2018/01/06(土)(五十嵐太郎)