artscapeレビュー
IN PRINT, OUT OF PRINT 表現としての写真集
2018年01月15日号
会期:2017/12/09~2017/12/24
入江泰吉記念奈良市写真美術館[奈良県]
入江泰吉記念奈良市写真美術館でユニークな展覧会が開催された。2015年9月から活動を開始したCASE Publishingは、まだ新しい出版社だが、このところクオリティの高い写真集を次々に刊行して、内外の注目を集めつつある。今回の企画は、荒木経惟『愛の劇場』、石内都『Belongings 遺されたもの』、トーマス・ルフ『Thomas Ruff』、鈴木理策『Water Mirror』、花代/沢渡朔『点子』、中平卓馬『氾濫』、村越としや『沈黙の中身はすべて言葉だった』など、CASE Publishingがこれまで刊行してきた、また現在出版準備中の写真集19タイトルを、多面的に展示・紹介するものだった。
会場には、運送用の木製パレットを使って組み上げた什器に、各写真集や束見本、紙見本などが手際よく配置されているほか、壁にはオリジナル・プリントや印刷用の刷版、校正刷などが並んでいた。普通われわれが目にする写真集は、完成して、最終的に書店に並んでいるものだが、それが実際につくられていくプロセスを見せることは、とても意義深い試みなのではないかと思う。写真家だけでなく、編集者やグラフィック・デザイナーやプリンティング・ディレクターも加わった共同作業によって、「表現としての写真集」が成立していることがよくわかるからだ。
ここ数年、CASE Publishingだけでなく、Match and Company(bookshop M)、POST、roshin books、スーパーラボなど、「独立系」の小出版社による少部数、高品質の意欲的な写真集出版の取り組みが目立ってきている。これは世界的な現象と言えるのだが、写真集制作の輝かしい伝統を持つ日本の出版社は、まさにその最先端を切り拓きつつあるのではないだろうか。一カ所での展示だけではもったいないので、ほかの出版社の写真集も一堂に会した同種の展覧会の企画も考えられそうだ。
2017/12/14(飯沢耕太郎)