artscapeレビュー
無垢と経験の写真 日本の新進作家 vol. 14
2018年01月15日号
会期:2017/12/02~2018/01/28
東京都写真美術館[東京都]
毎年開催されている東京都写真美術館の「日本の新進作家」のシリーズも14回目を迎えた。この「新進作家」という枠組みはいささか微妙で、すでにかなり知名度がある写真家が選出されることもあり、テーマ設定とフィットしない場合も多々あった。だが、今回は新鮮でバランスのとれた、かなりいいラインナップになった。「無垢と経験」というやや大きな間口のテーマにしたことが逆にうまくいったのではないだろうか。
吉野英理香、金山貴宏、片山真理、鈴木のぞみ、武田慎平という出品作家の顔ぶれを見ると、その作品の幅はかなり大きい。独特のリズム感を感じさせる日常スナップを撮影する吉野英理香と、義肢と共に生きるセルフポートレートと自作のオブジェとを組み合わせてインスタレーションした片山真理の作品は、ほとんど正反対のベクトルを備えているといってよい。統合失調症を発症した母親を撮り続ける金山貴宏、窓、鏡などに映し出される何気ない眺めを定着する鈴木のぞみ、東北・関東地方の汚染土壌に印画紙を埋めて、放射線の痕跡をトレースした武田慎平の作品も、まったくバラバラな方向を向いている。だが、現代社会のさまざまな「経験」の深み、奥行き、距離感を、それぞれが写真という媒体の特性を活かして表現しようとする、その切実さがきちんと伝わってきた。
ただ、このような独立した個展の集合のような展示の場合、写真作品相互の関係のあり方にはもう少し気配りが必要だったのではないだろうか。互いに干渉しあって、展示効果が相殺されてしまっているところもあった。
2017/12/20(飯沢耕太郎)