artscapeレビュー

《横浜港大さん橋国際客船ターミナル》

2018年01月15日号

[神奈川県]

クルーズで「飛鳥II」に乗船した。おかげでfoaが設計した《横浜港大さん橋国際客船ターミナル》を初めて出航と入港する側から見ることができた。頭ではわかっていたつもりだったが、本当にこれは船から見ると、さらにカッコよい。海に向かって突き出す波打つような屋上のヴォリュームのほか、客船と平行する水平のラインや層構成などがはっきりとわかる。もちろん、この建築の内部や屋上を歩くだけでも刺激的な空間を味わえるが、やはり移動しつつ海から眺めることもしないと、このデザインの醍醐味を本当に体験したことにならない。となると、世界各地を移動する超大型客船の場合、橋をくぐることができないため、ここに着岸できないのはもったいない。

同様に海から見る横浜の風景も素晴らしい。みなとみらいの高層建築や赤煉瓦の倉庫はもちろん、横浜のランドマークとして親しまれているキング、クィーン、ジャックという3つの近代建築が同時に視野に入るからだ。おそらく昔はもっと目立ったはずだ。しかも晴れていると、ビルのあいだに富士山がでっかく見える。このアングルは写真で知っていたが、本当に見たのは初めてだった。また地図上で理解していた象の鼻の形も、船から見下ろすと肉眼で確認できる。飛鳥IIはさまざまな高さから周囲を観覧できる船尾のデッキをもち、眺望を得るためのデザインがすぐれている。そして朝夕の食事もいい。

ただし、飛鳥IIの空間や内装は、ロイヤル・カリビアンのクルーズ船に比べると、意外に豪華でなかった。かといって、シックでもない。超大型(乗客3~4千人+乗組員千人以上)というスケールメリットのなせる技だろうが、なるほど、ロイヤル・カリビアンの安い価格設定はよくできている。船内で幾つかの音楽をはしごしたが、水野彰子+石井希衣が面白かった。通常、ラウンジの音楽は当たり障りのない有名な曲だけで終わるが、それも一応最初に入れつつ、途中で激しいガチのピアノ・ソロ(ショパンの「革命」とか)、最後にフルートのための超絶技巧系の現代音楽を演奏し、なかなか攻めた選曲だった。

2017/12/24(日)(五十嵐太郎)

2018年01月15日号の
artscapeレビュー