artscapeレビュー
都市活性装置としてのシティハブ重松象平氏公開レクチャ
2018年01月15日号
仙台で実際に市庁舎の建替えプロジェクトが動いていることから、今年の東北大の修士課程ではこれを設計課題に取り上げている。いつもとは格段にスケールが違う巨大な規模の施設であるため、前期はプレデザイン、後期は具体的なデザインというふうに分け、通年のプログラムとしたが、それでも学生たちはかなり苦労していた。そして後期は11月の中間講評に日建設計の勝矢武之氏、12月の最終講評にOMAニューヨーク代表の重松象平氏をゲストクリティックに招いた。講評の後は、せんだいメディアテークで重松氏の公開レクチャーも行なわれた。まず現在のOMAの組織がどうなっているか。OMAニューヨークはいわゆる支部というよりも、世界各地のそれぞれの事務所が、ロッテルダムのコールハースと対等の関係をもち、個別に自主的な活動をしているという。こうした組織のあり方は、かつてのMVRDVやBIGなどのように、優秀なOMAの子どもたちが独立してライバルにならないよう、引き留めておく側面もあるようだ。
重松のレクチャーは、決して早口のマシンガントークではないのに、高密度な内容だった。おそらく無駄がない効率的かつユーモアのあるプレゼンテーションだからだろう。そしてワシントンDCのXブリッジのプロジェクト、メトロポリタンミュージアムの展示デザイン、マイアミのアートフェア、facebookの社屋、ケベック国立美術館の新館、虎ノ門ヒルズ ステーションタワー、福岡の天神ビジネスセンターなど、社会を観察しつつ、いまという時代を意識したOMAニューヨークのエッジが鋭いデザインが示された。学生の保守的な課題案よりも、ラディカルなリアル・プロジェクトの数々は、確かにOMAの遺伝子を継承している。そして従来は建築分野とされないことにも切り込み、新しい領野を意欲的に開拓していた。特にハーバード大学の大学院スタジオでは、食をテーマにしたリサーチを行なっており、今後の展開が興味深い。なお、質疑応答では、自らが帰国子女枠を使いながら、日本で大型のプロジェクトを進めていることのほか、現在の日本の状況に腐らず、建築の可能性を探究すべきであることが語られた。
2017/12/08(金)(五十嵐太郎)