artscapeレビュー

thinking tools プロセスとしてのデザイン ──モダンデザインのペンの誕生

2018年04月01日号

会期:2018/03/03~2018/04/08

21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3[東京都]

世界を見渡しても、筆記具ほど二極化している製品はない。つまり何万円もする高級ブランド品か、使い捨てを前提とした数百円程度の廉価品か、多くがそのどちらかしかないのである。前者は富裕層や持ち物にこだわりのある人が買い求め、後者はそれ以外の人が買い求めるという構図だ。しかしドイツのペンブランド、ラミーはその中間にあると言っていい。豪華さや色気はないが、優れたモダンデザインを特徴とし、ラインナップの多くを一万円前後か数千円のペンが占める。特に「ラミー サファリ」は数千円という低価格とカジュアルさが受けて、もっとも売れた万年筆と言われている。万年筆を初めて使う人にとっては、非常に取っ付きやすい製品なのだ。

そのラミーのデザインに焦点を当てたのが本展だ。ラミーはドイツ・ハイデルベルグに本社を置く企業で、1960年代に創業者の息子のマンフレッド・ラミーがデザインの礎を築いた。彼が規範にした企業は、イタリアの事務機器メーカーのオリベッティやドイツの家電メーカーのブラウンだった。デザインに詳しい人なら、これらの名前を聞いて納得がいく。幸運だったのは、独立したばかりの元ブラウンのデザイナー、ゲルト・アルフレッド・ミュラーと出会い、新しいタイプの万年筆「ラミー 2000」の開発ができたことだ。これを転機に、ラミーはデザインを企業戦略としていく。

デザインといっても、その内容は製品の形や色を考えることだけではない。アイデアの収集に始まり、プロトタイプ、製造、物流まで、製品開発プロセスには約140もの作業ステップがあるという。そのプロセスにおいてデザイナーは一部の作業を担うにすぎない。デザイナーのほか、デザインの知識を有した経営者、技術者、マーケティングスタッフらによるチームワークによって、説得力のあるデザインは実現するのだという。本展では「ラミー アルスター」を大量に使った壮大なインスタレーションや歴代製品がわかる展示とともに、その製品開発プロセスを示すチャートが大きく掲げられていた。それはそれで圧巻だったのだが、チャートに示されていた用語はドイツ語と英語のみ。しおりや図録を見れば日本語も書かれていたことにあとから気付くが、英語力がやや乏しい私にとっては、その場で理解に苦労した部分があったことも否めない。

展示風景 21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3

展示風景 21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3

公式ページ:http://www.lamy.jp/thinkingtools.html

2018/03/03(杉江あこ)

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