artscapeレビュー
劇団ドクトペッパズ『うしのし』
2018年04月01日号
会期:2018/02/23
国立オリンピック記念青少年総合センター 第1体育室[東京都]
「牛の死」を描いた本作は手のひらサイズの人形によって上演される人形劇だ。糸で繰られる老人と老いた牛は老いを映すようにふるふると震える。老い、死に近づくほどに私たちは自らの体を思うようには動かすことができなくなり、それは物体としてのあり様を露わにしていく。
舞台となる空間の大きさは5メートル四方ほどもあるのだが、老人の家と畑は空間の前面に置かれた30センチ四方ほどの二つの台の上にあり、牛とともに畑仕事に勤しむ老人はその小さな世界で充足している。しかし牛の死がその世界の終わりを告げる。唯一の伴侶を失った老人は呆然と座り込む。ふと見ると、引くもののない牛車がするすると進んでいく。追いかける老人。牛車ははるか先へと進みゆき、老人は気付けば何もない真っ白な雪原にひとり取り残されている。広大な世界に放り出された老人の人形はより一層小さく見える。
と、真っ白な雪原は一瞬にして、色とりどりの花が咲き乱れる桃源郷へと変わる。そこにあの牛が酒を運んでくる。再会を祝し盃を干す。花びらが舞い、次の季節が訪れる。青々と茂る稲に風が吹き渡り雲が流れる。いつしか牛は再び去っている──。
広大な世界のなかで個々の命は圧倒的に孤独で小さい。誰が死のうと季節はめぐる。だが、その死の一つひとつはめぐる自然の理へと組み込まれている。死を通して世界の大きさに触れる彼らの手つきは温かい。ほとんどの演出効果が人力によっていることも大きいだろう。台詞らしい台詞はない。「おーい」と牛を呼ぶ老人の声。牛の鳴き声。舞う花びら。ばらんでできた稲が吹く風に立てるパタパタという音。それぞれが確かにそこにあることを確かめるようにして上演は進む。小さな人形と広い空間の対比、一瞬で季節が変わる舞台美術など、人形劇ならではの手法と仕掛けが鮮やかに作品の主題を浮かび上がらせていた。
本作は劇団ドクトペッパズのレパートリーのひとつであり、夏にも上演が予定されている。
公式サイト:http://dctpeppers.wixsite.com/mysite
劇団ドクトペッパズ『うしのし』ダイジェスト版:https://www.youtube.com/watch?v=uFYLQdK4fnQ
2018/02/23(山﨑健太)