artscapeレビュー
練馬区独立70周年記念展「サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法」
2018年04月01日号
会期:2018/02/22~2018/04/15
練馬区立美術館[東京都]
かわいらしくユーモラスな作風で知られるフランスのポスター作家、レイモン・サヴィニャック。日本にもファンは多く、その層はクリエーターからフランスかぶれまでさまざまだ。何を隠そう、私もそのひとりだった。彼らが共通して抱くサヴィニャックに対するイメージは、冒頭の言葉に集約されるのだと思う。しかし本展を観て、そのイメージが変わった。サヴィニャックはコミュニケーションデザインに非常に長けた作家だったことに改めて気付いたのである。
編集の仕事で、私がいつも心がけることはワン・ビジュアル=ワン・メッセージである。ひとつのビジュアルで伝えられるメッセージはたったひとつ。あれこれといくつもの要素を盛り込んでしまうと、そのイメージは希釈され、本当に伝えたいメッセージは伝わらなくなる。これはコミュニケーションデザインの基本と言っていい。サヴィニャックはこれを熟知していた。モチーフ、色使い、キャッチコピーなどにおいて徹底的に無駄を削ぎ落とし、その製品の特徴やメッセージが一目でわかるポスターを描いていたからだ。
本展では、サヴィニャックの黄金期の作品を10項目のモチーフに分類した展示を行なっていた。なかでも、サヴィニャックのコミュニケーションデザイン力がもっとも表われていると思ったのは「製品に命を吹き込む」の項目だ。これは製品そのものでできた人物や、製品と一体化した人物を描いたポスター群である。例えばベッドから起き上がる人物がマットレスとなっているポスター、毛糸が自分で自分を編むポスターなど、まさにワン・ビジュアル=ワン・メッセージの究極のかたちである。「動物たち」の項目に分類されていたが、かの有名な出世作《牛乳石鹸モンサヴォン》も動物と製品が一体化した同様の構図である。
また一部、デッサンや原画も併せて展示されており、デッサンの画面全体には薄い線でグリッドが引かれているのが見てとれた。フリーハンドで描いたかのような大らかな筆致に見えて、実はとても計算して描いていたことを思い知る。サヴィニャックが第一線を降りた1980年代以降はコンピュータが登場し、ポスター作家はグラフィックデザイナーへと名を変え、さらにアートディレクターが台頭する時代となる。しかし道具が筆からマウスへと変わっても、サヴィニャックの斬新なアイデアや表現力に学ぶべきことは多分にあるのではないか。
公式ページ:https://www.neribun.or.jp/event/detail_m.cgi?id=201709181505718201
2018/02/27(杉江あこ)