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生誕150年 横山大観展

2018年06月01日号

会期:2018/04/13~2018/05/27

東京国立近代美術館[東京都]

横山大観といえば近代日本を代表する画家であり、国民画家といっていい。なんてったって明治元年の生まれだから、近代日本の申し子みたいなもの。明治、大正、昭和の前半まで日本の近代とともに歩み、日本画という形式を確立させた功績は大きい。展覧会の構成も「明治」「大正」「昭和」と単純明快な分け方だ。絵そのものもわかりやすい。たまに《屈原》のような、逆風に立たされた師匠・岡倉天心の苦しい心を暗示したような「読む絵」もあるが、あとは富士にしろ桜にしろ四季の風景にしろ、見たまんま、なんの裏もない。

驚いたのは、76年ぶりにハレー彗星が地球に近づいたときにしっかり《彗星》を描いていること。また外国に行けば、ナイアガラの滝や万里の長城を六曲一双の金屏風に仕立ててもいる。グローバルというより節操がないのかもしれない。これは芸術家にとって重要な気質だ。全長40メートルを超す《生々流転》などは、長大さで目を引こうというスタンドプレイだろう。その最たるものが、戦時中の1940年に描かれた通称「海山十題」の連作だ。皇紀2600年を記念して大観が得意とする海と富士山の絵を各10点ずつ制作し、それぞれ日本橋の三越と高島屋で展示即売。その売り上げ金50万円で4機の戦闘機を購入し、海軍と陸軍に2機ずつ献納したというのだ。当時は戦闘機など消耗品だから(乗組員はさらに消耗品だった)それで戦況が変わったということはないけれど、大観の行為は戦時下における芸術家の模範的役割を示すと同時に、国民に対する愛国精神のアピールにもなったはず。今回はそのうち7点が出ている。まあ残された作品より、近代日本の広告塔としての役割のほうが大きかった画家ではないかと思った。

2018/04/12(村田真)

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