artscapeレビュー

プレビュー:KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2018

2018年09月15日号

会期:2018/10/06~2018/10/28

ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、京都府立府民ホール “アルティ”、元離宮二条城ほか[京都府]

9回目を迎えるKYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭(以下「KEX」)。公式プログラムでは、12組のアーティストによる計15の公演や展示が行なわれる。

今年のKEXの大きな特徴は、「女性アーティストあるいは女性性をアイデンティティの核とするアーティスト/グループ」で構成されることだ。プログラムディレクターの橋本裕介によれば、「性およびジェンダーが文化的であるだけでなく、いかに政治的なものであるかへの問い」、さらに集団芸術としての舞台芸術と父権主義的な統率システムとの関係をめぐる問いが根底にあるという。加えて、「#MeToo」のムーブメントや性的マイノリティの権利擁護といった世界的動向、女性差別の事例が後をたたない国内状況への批判的視線も想起させ、極めてタイムリーかつ意義深いテーマ設定だ。

ただし、「女性アーティスト」という括りや「女性性」の強調は、一方で、男性/女性というジェンダーの本質論的な二分法の強化や再生産に結び付いてしまう可能性がある。そうではなく、「女性(性)」をめぐる考察を経由した先に、(ジェンダーに限らず)あらゆる本質論的なカテゴリーの無効化を見通せるかどうかが賭けられている。以下では、上演作品どうしの横の繋がりとして、筆者なりの視点から、いくつかポイントを抽出してみたい。

1)女性が(消費される客体としてではなく)「性」について主体的に語り、表現すること。ヘテロセクシャルな男性主体による社会通念や支配的規範からの脱却。

2011 年にフェスティバル/トーキョーとアイホール(兵庫)で『油圧ヴァイブレーター』を上演し、重機との妄想的な性愛をパフォーマンスに昇華させた作品で衝撃を与えた韓国のジョン・グムヒョンは、医療の教育現場で男性患者のダミー身体として使われる人形と「共演」する『リハビリ トレーニング』を上演する。無機的な人工物と生命、主体と客体の境界が曖昧に流動化していくなか、「モノ」としての身体に投影される欲望や反転した自己愛が剥き出しとなり、震撼させる作品になるだろう。

また、3度目の登場となるドイツの女性パフォーマンス集団She She Popは、老若男女の出演者と共演。自らの身体を「教材」とし、教師と生徒役を入れ替えながら「性教育の教室」を演じる『フィフティ・グレード・オブ・シェイム』を上演する。

1975年の設立以来NYのアートシーンを牽引する劇団、ウースターグループは、1971年の女性の解放に関する激しいディベートを記録した映画に基づき、『タウンホール事件』を上演する。

気鋭の劇作家・演出家・小説家の市原佐都子/Qは、『毛美子不毛話』『妖精の問題』の代表作二本立てを上演する。時に観客の生理的嫌悪をかきたてるほど、動物的な欲望や性のメタファーを女性の視点から生々しく描写する作風が特徴だ。


ジョン・グムヒョン『リハビリ トレーニング』
[Photo by Mingu Jeong]

2)記憶の継承と他者への分有。フィクションとドキュメンタリーの交差によって可能となる語りを、舞台の一回性の経験として生起させること。山城知佳子、ロラ・アリアスに加えて、上述のウースターグループは1)と2)を繋ぐ存在と言える。

出身地の沖縄を主題に、パフォーマンス、写真、映像作品を制作する山城知佳子は、あいちトリエンナーレ2016で発表され、反響を呼んだ《土の人》を展示。また、同作から展開されるパフォーマンス作品を発表する。沖縄戦の記録フィルムにヒューマンビートボックスによる銃撃音がかぶさるシーンや、満開の百合畑で天に差し出された無数の手が拍手のリズムを奏でるラストシーンが、生身のパフォーマーにより演じられるという。映像から飛び出し、生の舞台空間へと展開する山城の新たな挑戦に注目したい。

また、2度目の登場となるロラ・アリアスは、現実とフィクションを交錯させ、ドキュメンタリー演劇の分野で活動している。上演予定の『MINEFIELD―記憶の地雷原』は、1982年、イギリスとアルゼンチンの間で勃発したフォークランド紛争/マルビナス戦争に従軍した元兵士たちが、映画セットを模した空間で、当時の記憶を再訪するという作品だ。



山城知佳子『土の人』
© Chikako Yamashiro, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

3)「ダンス」の領域の新たな開拓。

KEX 2014で『TWERK』を上演し、クラブカルチャーとクラシックバレエ、猥雑さと技術的洗練のめくるめく混淆を強烈な音響とともに刻み付けたセシリア・ベンゴレア&フランソワ・シェニョー。上演予定の『DUB LOVE』では、ダブ・プレートDJと共演し、強力な音響機構が刻むビートと拮抗する身体を提示する。

ダンサー、振付家の手塚夏子は、ダンス作品をアーカイブ化し、未来と他者へと手渡す「ダンスアーカイブボックス」に参加。手塚から「漂流する小瓶」としてのインストラクションを受け取って上演したスリランカのヴェヌーリ・ペレラ、韓国のソ・ヨンランとともにユニット「Floating Bottle」を結成し、KEXに参加する。ダンスのアーカイブ、再演と解釈といった問題に加え、西洋近代化がもたらしたさまざまな「線引き」への再考も視野に含むという。

また、ヴェネツィア・ビエンナーレ2018舞踊部門での銀獅子賞受賞など、世界的な注目を集めるマレーネ・モンテイロ・フレイタスは、ギリシア悲劇『バッコスの信女』をモチーフとしたダンス作品を上演する。

2度目の登場となるジゼル・ヴィエンヌは、暴力やドラッグをテーマとする作家デニス・クーパーによるサブテキストを、一言も言葉を発しないまま、15人のダンサーによるムーブメントに置き換えた『CROWD』を上演。激しい興奮と音楽にかき立てられた若者の群れの熱狂を通して、暴力とそれへの欲望が描き出される。


セシリア・ベンゴレア&フランソワ・シェニョー『DUB LOVE』
[Photo by Laurent Philippe / Divergences]

4)上演が行なわれる具体的で固有の「場所」への介入や読み替え。

昨年のKEXで、光と影による繊細な表現で魅了した田中奈緒子は、二条城の二の丸御殿台所にて、空間との対話を試みる。

また、自身の身体を素材としたパフォーマティブな作品を制作するブラジルのロベルタ・リマは、インスタレーション作品の展示空間でパフォーマンスを上演。計3回のパフォーマンスの度に、展示空間は姿を変えていくという。



田中奈緒子『STILL LIVES』
[Photo by Henryk Weiffenbach]

最後に、もちろん、ここで紹介したポイントは一つの観点にすぎないし、実際に上演を見た印象は異なる場合もあり、より豊かなものとなるだろう。多彩で刺激的なラインナップを観客それぞれの視点から見比べ、あなたなりのポイントを見つけだしてほしい。

公式サイト:https://kyoto-ex.jp/2018/

2018/09/03(月)(高嶋慈)

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