artscapeレビュー
ル・コルビュジエ《ラ・トゥーレット修道院》《ロンシャンの礼拝堂》
2018年09月15日号
[フランス、リヨン・ロンシャン地方]
大学院のとき以来だから、約四半世紀ぶりにラ・トゥーレットの修道院を再訪した。ル・コルビュジエの全作品を見たわけではないし、今回も宿泊エリアは立ち入ることができなかったが、改めて彼の最高傑作だと思う。真に立体的な空間構成、信じがたい複雑さ、あらゆる細部が絵になるチャーミングな造形力、光の操作、そしてプログラムの面白さ。おそらく、日本で活躍した弟子たちで、このレベルのデザインに到達した建築家はいなかった。ところで、1990年代の前半はまだデジカメもスマホもなく、カメラのシャッターを切ると、それだけお金がかかる。リバーサル・フィルムだと1枚あたり100円かかり、院生の身にとっては痛い出費なので、あらかじめアングルを考え抜いてから、枚数を抑えて撮影していた。それでも当時ひとつの建物で最高記録となったのが、ラ・トゥーレットである。ともあれ、僧坊以外はあまり繰り返しがなく、多様な場をもつ建築だ。
翌日、《ロンシャンの礼拝堂》に足を運んだ。本物が複製されたイメージよりもはるかに良い、間違いなく、これもル・コルビュジエの傑作である。もっとも、あまりに特殊解過ぎて、これで打止めというか、汎用性もないデザインだ。すなわち、真似をしても、すぐに元ネタがわかるくらい個性的なために意味がない。また興味深いのは、室内が反転された外部のような造形空間であること。そしてロンシャンの礼拝堂には、説明責任に縛られ、いまの日本建築界に失われたかたちの悦びがある。ところで、ロンシャンのビジターセンターを含む関連施設(2011)をレンゾ・ピアノが手がけていた。ルイス・カーンの《キンベル美術館》でも向き合うように、彼が新棟を担当していたが、傑作の横で邪魔はしないが、空間のクオリティを確実に維持できる建築家の枠なのかもしれない。もちろん、ロンシャンと対決して勝つのは無理だろうし、下手なデザインで失敗したら大惨事になるからだ。
2018/08/15(水)(五十嵐太郎)