artscapeレビュー
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018
2018年09月15日号
会期:2018/07/29~2018/09/17
越後妻有里山現代美術館[キナーレ]ほか[新潟県]
第7回となる越後妻有アートトリエンナーレのオープニングに出席する。今回の式典会場は屋外ではなく、原広司が設計した《キナーレ》の回廊を用いたおかげで、朝とはいえ、夏の暑さを回避することができた。21世紀の日本の芸術祭における建築と美術の境界を下げることに大きく貢献したのは、間違いなく、越後妻有の功績だが、2018年も建築的な見所が用意されている。まず、キナーレは、レアンドロ・エルリッヒによる錯視を利用した《Palimpsest: 空の池》を囲むように、企画展「方丈記私記」の四畳半パヴィリオンが並ぶ。例えば、建築系では、箸を束ねた《そば処 割過亭》(小川次郎)、人力で家型が上下する《伸び家》(dot architects)、《十日町 ひと夏の設計事務所》(伊東豊雄)、デジタル加工したダンボールによるコーヒースタンド(藤村龍至)、メッシュによる方丈(ドミニク・ペロー)、公衆サウナ(カサグランデ・ラボラトリー)である。極小空間としての庵そのものは、もうめずらしくないテーマだが、今後これらが町に移植され、活性化をはかるという。
清津峡渓谷トンネルに設置された中国のマ・ヤンソン/MADアーキテクツの《ペリスコープ》と《ライトケーブ》は傑作だった。前者は上部の鏡から外部の自然環境を映し込む足湯、後者は見晴らし所にアクセスするトンネルを潜水艦に見立てたリノベーションである。全長750mの巨大な土木空間ゆえに、照明、什器、トイレ、水盤鏡など、わずかに手を加えただけだが、まるでこの作品のためにトンネルがつくられたかのように思えるのが興味深い。そして何よりも涼しいことがありがたい。そしてトリエンナーレの作品ではないが、十日町では青木淳による新作が登場した。地元と交流しながら、設計を進めたプロセスでも注目された《十日町市市民交流センター「分じろう」》と《十日町市市民活動センター「十じろう」》である。リノベーションとはいえ、外観はあえて明快な顔をつくらない感じが彼らしい。その代わりに「十じろう」では、マーケット広場という半公共的な空間をもうける。ゆるさをもつデザイン、自動ドアでない引き戸、青木が寄贈した本などが印象に残った。
2018/07/29(日)(五十嵐太郎)