artscapeレビュー

リヨンの近現代建築

2018年09月15日号

[フランス、リヨン]

リヨンは、これまで通過のための滞在ばかりで、あまりゆっくり建築を見ることがなかった。ゆえに、トニー・ガルニエの《ラ・ムーシュ公営屠殺場》と《エドゥアール・エリオ病院》も初訪問である。いずれも長かったり、広大な施設だ。意匠的には、古典の感覚が強く残る過渡期のコンクリートの近代建築だが、《旧三井物産横浜支店倉庫》をあっさり解体した横浜と違って、よく残しており、しかもちゃんと活用していることに感心させられた。ジャン・ヌーヴェルが増改築を手がけた《オペラ座》は、今回も内部に入れなかったが、やはり赤と黒の使い方は印象的である。前面の柱列に演奏を楽しめる飲食スペースが設けられたり、側面でダンスの練習をする若者がいて、街に馴染んだというか、以前と雰囲気が変わっていた。

手前にベンチが設置された休憩できる印象的なパストゥール橋を渡ると、コープ・ヒンメルブラウによる《コンフリュアンス博物館》が建っている。両者があわせてリヨンの川辺に新しい景観を創出し、ランドマークとしての機能を見事に果たしている。特に博物館は未来的な造形(メカっぽい巨大な生き物のようだ)、ねじれたガラスの空間、ダイナミックに持ち上がる構成、建築の腹の下の水面など、休館日でも十分にデザインを楽しめる力作だ。そして新しく再開発されたエリアは、古建築を保存する歴史的な街区とは違い、クリスチャン・ポルザンパルク、ヤコブ&マクファーレンなど、アヴャンギャルドな現代建築のオンパレードである。なお、ここでも隈研吾の建築群「Hikari」(おそらく、映画を発明したリヨンのリュミエール兄弟にちなむ)が含まれており、フランスにおける隈建築の浸透度合いを感じる(その後、ブザンソンでも隈による《芸術文化センター》と遭遇した)。これに隣接するMVRDVらが設計した巨大な複合建築《モノリス》は、ど迫力の空間であり、ヨーロッパの都市建築の歴史の延長に出現した未来的な集合住宅の風景だった。

トニー・ガルニエ《ラ・ムーシュ屠殺場》


トニー・ガルニエ《エドゥアール・エリオ病院》


ジャン・ヌーヴェルが増改築を手掛けた《オペラ座》


コープ・ヒンメルブラウ《コンフリュアンス博物館》


「Hikari」


MVRDV《モノリス》


2018/08/14(火)(五十嵐太郎)

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