artscapeレビュー
あいちトリエンナーレ2019 情の時代(6回目)
2019年11月15日号
会期:2019/08/01~2019/10/14
愛知県芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市芸術創造センター[愛知県]
6回目のあいちトリエンナーレ2019である。名古屋市美術館では、復活したモニカ・メイヤーの《The Clothesline》の展示も、開幕当時に比べると、ものすごい書き込みの量が増え、迫力を増していた。そして長かった展示閉鎖時の状況も一部残されていた。
また映画『ジョーカー』を観た後で、愛知県芸術文化センターにおけるウーゴ・ロンディーネの《孤独のボキャブラリー》を再訪すると、なんだか怖い。ともあれ、いったん閉鎖された作品の再開をすベて確認することができた。一方で閉鎖時に寄せられた来場者のメッセージも残されている。最後の訪問は情報系の作品を中心にじっくり見てまわったが、改めて今回のあいちトリエンナーレ2019は同時代的なコンセプトに沿った作品が粒ぞろいだったと思う。なお愛知県芸術文化センターの周辺では、街宣車が「河村市長の言うとおり!」と絶賛していた。彼の言動がそうした状況を導いたわけだが、右翼に擁護される市長というのは驚きである。
まとめてパフォーミング・アーツのプログラムを鑑賞した。劇団アルテミスの『ものがたりのものがたり』(名古屋市芸術創造センター)は、先住民、抽象的なオブジェ、ファミリー、劇場にやってくる「ものがたり」という4つのばらばらのレイヤーが同時進行しつつ、観客も安心して鑑賞できないような物語を解体する演劇だった。トランプ/ビヨンセ/ロナウドによる家族(!)の巨大な肖像がそれぞれ動き、唾を吐き、逆立ちする演出は、バカバカしさとともに鮮烈な印象を残した。
続いて参加した、ドミニク・チェンのレクチャー・パフォーマンス『共在言語をつくるために』(愛知県芸術文化センター)は、膨大なスライドを用意され、気合いの入ったプレゼンテーションだった。彼の個人史に重ねつつ、メディア・アート、ドゥルーズ、ベイトソン、マクルーハンと、ガチの講義スタイルで語っていた。そして初めて観た市原佐都子の作品『バッコスの信女─ホルスタインの雌』(愛知県芸術文化センター)は冒頭からフルスロットルで飛ばしていた。とある住宅のリビングで主婦が性/生をあからさまに語った後、同性愛、牛の人工授精、異種交配のテーマが同じリビングでめくるめく展開し、「種」も「性」も「家族」も解体されていく。またミュージカルのごとく、途中でさまざまなタイプの歌をはさみ込む。女性のみの役者陣の、振り切った演技にも刮目した。
観劇が遅くまでかかり、高山明/Port B『パブリックスピーチ・プロジェクト』のライヴ・パーティは、後からニコ生で視聴することになった。当初の予定だったアジアの複数の都市を中継する企画は実現できなかったが、それだけ今回のトリエンナーレの激動に巻き込まれ、代わりの抵抗の方法として、コールセンターの立ち上げに高山の時間が割かれたと察する。それでも、3名のラッパーによるアジアの解釈に、音楽と詞の可能性を十分に感じることができた。
あいちトリエンナーレ2019 情の時代 公式サイト:https://aichitriennale.jp/
2019/10/13(日)(五十嵐太郎)