2020年01月15日号
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artscapeレビュー

KYOTO EXPERIMENT 2019|庭劇団ペニノ『蛸入道 忘却ノ儀』/ブシュラ・ウィーズゲン『Corbeaux(鴉)』

2019年11月15日号

ロームシアター京都 ノースホール、元離宮二条城+平安神宮[京都府]

庭劇団ペニノ『蛸入道 忘却ノ儀』とブシュラ・ウィーズゲン『Corbeaux(鴉)』。上演日程を同じ週に設定した確信犯的意図は明らかだ。「儀式性」「観客への集団化作用」という共通項と、対照性を感じた両者を、本評ではまとめて取り上げる。

庭劇団ペニノ『蛸入道 忘却ノ儀』は、上演空間が本物かと見紛うほど精緻に作り込まれた「お堂内部」に変貌し、「蛸」を「神」と崇める8名の信者(を模したパフォーマー)とともに読経や唱和に参加し、(疑似)宗教儀式のトランスを体験するという作品だ。観客を構築されたフィクション内部へと誘う仕掛けは、(上演開始前から既に)周到に幾重にも仕掛けられており、入場前に「名前と願い言」を書いたお札が儀式中に読み上げられてお焚き上げされる、「お堂内の窓や扉を密閉する」作業を観客にやらせる、「経典」や打楽器を配り、読経や木魚を叩くリズムに参加させるなど、「儀式」とその集団化作用へ取り込もうとする「演出」が散りばめられている。さらに、パフォーマーたちが次々と繰り広げる歌唱、三味線や二胡などの演奏に加え、「火入れ」された中央の炉、それが発散する熱、炉に投入されるお香のスパイシーな香りが五感の総動員へと駆り立てる。



[Photo by Yoshikazu Inoue, Courtesy of Kyoto Experiment.]



一方、ブシュラ・ウィーズゲン『Corbeaux(鴉)』は、二条城(13日)と平安神宮(14日)という屋外空間で、9名の女性パフォーマーの身体と声だけで行なわれるミニマルな作品。薄暗くなり始めた夕空の下、静かに入場したパフォーマーたちは、頭に巻いた白いスカーフと黒服というそろいの出で立ちだ。互いに数メートルの距離を保ち、別々の方向を向いて立った彼女たちは、しばしの沈黙の後、頭と上体を激しく前後に振りながら、掛け声とも動物の咆哮ともつかない鋭い叫びを、一定のリズムで反復し始めた。彼女たちは約30分間、位置は不動のまま、短くも全身全霊の叫び声を発し続ける。ひとりの叫びのトーンが少し変化すると、他の声もそれに応答し、時に微妙にズレるリズムは多層的な音響の揺らぎを発生させていく。豊かな反復と差異を湛え、「自律」と「共鳴」の拮抗関係を保ち続けた後、彼女たちはひとり、またひとりと沈黙し、向き合う二人だけとなり、最後のひとりもやがて叫びを停止した。



[Photo by Takeshi Asano, Courtesy of Kyoto Experiment.]


ここで前者の庭劇団ペニノ『蛸入道 忘却ノ儀』を振り返ると、「蛸=神を信仰する」というフィクショナルな意味の中心(の空虚さの充填)に向かって、容器(舞台美術の造形的完成度)と振る舞い(宗教儀式の形態的模倣)が全力で投入されていたと言える。だが、舞台美術を作り込めば作り込むほど「つくりもの」感が増し、「みんなでお祭りに参加する楽しさ、エネルギーの発散」はあっても、歌舞音曲を伴う宗教儀式(とそれを起源のひとつとする舞台芸術)が本質的にはらむ「身体的同調を通した集団化作用」に対する批判的契機は見られなかった。観客をどこまで「ノせる」のか?(読経や打楽器のリズムに、あるいは(フィクションと了解しつつ)「(疑似)宗教儀式」そのものに)。「実際に、トランス状態に陥った観客が踊り狂う」事態の出現まで想定していたのか、そこまでの狙いがあったのかは不明だが、観客の身体に対する演出設計について言えば、パフォーミングエリアと客席を明確に分け、「『堂内』にすし詰めで座ったまま、ほぼ身動きが取れない」拘束的な状況は、むしろ足枷となったのではないか。


対照的に、ブシュラ・ウィーズゲン『Corbeaux(鴉)』は、そうした意味の中心性が仮構されていなくとも、求心力の弱まりにはならず、むしろ体験の強度が増すことを示していた。そのことは、(パフォーマーが煽らなくとも)「磁場の中心に吸い寄せられるように、観客の輪が自然発生的に縮まる」事態が簡潔かつ雄弁に物語っていた。パフォーマンスが(淡々と、しかし次第に熱を帯びて)進行するにしたがい、初めは遠巻きに取り囲んでいた観客たちは、次第にその輪を縮め、至近距離で眺める人もいた。本作では、観客の身体的振る舞いも(作品要素のひとつとして)計算されている。それは、「その場に不動のパフォーマーたち/座席がなく、自由に移動できる観客」という設計上の対比構造に如実であり、効果的に作用していた。装飾的要素を切り詰めたミニマルに徹しつつ、パフォーマーの声の豊かな振幅の強度によって、「観客の身体感覚に対して遠隔操作的に作用し、その点を反省的に自覚させる」点で、秀逸な作品だった。



[Photo by Takeshi Asano, Courtesy of Kyoto Experiment.]



庭劇団ペニノ『蛸入道 忘却ノ儀』
会期:2019/10/11~2019/10/15
会場:ロームシアター京都 ノースホール

ブシュラ・ウィーズゲン『Corbeaux(鴉)』
会期:2019/10/13~2019/10/14
会場:元離宮二条城、平安神宮


公式サイト:https://kyoto-ex.jp/2019/


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