2021年09月15日号
次回10月1日更新予定

artscapeレビュー

プレビュー:KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 SPRING

2021年01月15日号

会期:2021/02/06~2021/03/28

ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、京都伝統産業ミュージアム、京都府立府民ホール“アルティ”ほか[京都府]

新型コロナウイルスの影響で、例年通りの秋開催から今春に会期変更となった「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 SPRING」(以下KEX)。フェスティバルの立ち上げから10年間ディレクターを務めた橋本裕介に代わり、川崎陽子、塚原悠也、ジュリエット・礼子・ナップの3人が共同ディレクターを務める新体制に移行した。川崎とナップはそれぞれKEXで制作と広報を務めており、塚原はcontact GonzoとしてKEXに何度も参加してきた一方、「KOBE-Asia Contemporary Dance Festival #3」(2014)などでのディレクター経験も持ち、それぞれの経験や得意分野を活かした連携が期待される。併せて一新されたロゴも斬新だ。

プログラム構成の大きな変化は、国内外の先鋭的な作品を上演するプログラム「Shows」に加え、アーティストが協働して3年間にわたり関西の地域文化をリサーチする「Kansai Studies」、そしてトークやワークショップなどを通じて多角的に思考を深める「Super Knowledge for the Future(SKF)」の3本柱で構成される点だ。また、関西を拠点とするアーティストを積極的に取り上げ、アジア圏のアーティストの紹介に力を入れている点も、注目すべき変化である。

上演プログラム「Shows」では、関西より、ダンサーの中間アヤカと垣尾優、音遊びの会が選出。中間は、2019 年初演のソロ作品『フリーウェイ・ダンス』を、京都版としてリ・クリエーションする。ダンスの専門的な訓練を受けていない人たちから提供してもらった「初めて踊ったときの記憶」を「振付」として踊るこの作品は、自己/他者、ダンス/日常的な所作といった境界に加え、「出入り自由で庭のような上演空間」「『ごはんの時間』も挟む4時間に及ぶ上演時間」といった仕掛けにより、「ソロダンス作品」の既存の枠組みをゆるやかに解体させていく。contact Gonzoの元メンバーで、近年は自身のソロ作品も発表する垣尾優は、「ダンスそのものに正面から向き合うことで、混沌とした『動く』ことの原初的考察」になるという新作を発表予定。また、知的障害のある人を含むアーティスト集団「音遊びの会」は、即興的なセッションを中心に演奏活動を行なっているが、今回、小説家・作詞家・ラッパーのいとうせいこうを迎え、「音と言葉のセッション」をテーマにしたコラボレーションを行なう。同じく関西の音楽シーンの紹介という点では、BOREDOMS、想い出波止場など多数のバンドで活動してきたミュージシャン、山本精一のディレクションのもと、関西の実験的表現の系譜をたどるプログラムが組まれている。

また、「Kansai Studies」では、大阪の建築家ユニットdot architectsと、京都の演出家・和田ながらが、「水」をテーマに関西各地のリサーチを行ない、ウェブサイトでのリサーチ過程の公開を経て、2022年度に3年間の成果を発表する予定だ。



中間アヤカ&コレオグラフィ『フリーウェイ・ダンス』 [Photo by Junpei Iwamoto]


アジア圏からは、インドネシアのヴィジュアル・アーティスト、ナターシャ・トンテイと、タイの若手演出家、ウィチャヤ・アータマートが参加。ナターシャ・トンテイの『秘密のグルメ倶楽部』は、人体を模した料理を、ホストの彼女自身とパフォーマーが食べるというパフォーマティブ・ディナー。ポップでグロ可愛い世界観のなかに、カニバリズムや過剰消費といった問題が潜む。また、多くの国際フェスティバルで高い評価を受けたウィチャヤ・アータマートの『父の歌(5月の3日間)』は、バンコクの小さなキッチンを舞台に、亡き父を偲ぶ姉弟の会話を通して、個人的な日常のなかにタイの政治史が交差するさまを描き出す。



ナターシャ・トンテイ『秘密のグルメ倶楽部』 [© Natasha Tontey]


KEXは過去10年を通して、「常識」「タブー」を激しく揺さぶるような挑発的な作品を取り上げてきたが、その実験性やラディカルな批評性は健在だ。特にジェンダーやセクシュアリティ、身体の表象をめぐる思考を挑発的に展開するのが、オーストリアの振付家のフロレンティナ・ホルツィンガー、カナダの振付家・ライブアーティストのデイナ・ミシェル、カナダのアート&リサーチ集団、ママリアン・ダイビング・リフレックス/ダレン・オドネルによる3作品である。フロレンティナ・ホルツィンガーの『Apollon』(映像での上映)は、バレエの名作『アポロ』の神話的世界をベースに、6名の女性パフォーマーが出演。マシントレーニング、バレエのバーレッスンからスプラッターやワイヤーアクションが悪趣味なまでに展開し、女性の身体やジェンダー表象に問いを投げかける。デイナ・ミシェルは、ソロ作品『Mercurial George』の記録映像と新作映像作品『Lay them all down』の2本立てを上映。独自のダンス言語と繊細なジェスチャーで、自身のアイデンティティやセクシュアリティを問う。ママリアン・ダイビング・リフレックス/ダレン・オドネルは、各国でワークショップを重ねて上演してきた『私がこれまでに体験したセックスのすべて』の日本版を上演する。多様なバックグラウンドを持つ60歳以上のシニアたちが、リアルな性体験を通して人生を語っていくという対話型演劇だ。



ママリアン・ダイビング・リフレックス/ダレン・オドネル『私がこれまでに体験したセックスのすべて』(オーストラリアでの上演、2017)[Photo by Jim Lee]


最後に、舞台芸術全体に対する相対化の視線として、キュレーター・映像作家の小原真史が企画する展覧会「イッツ・ア・スモールワールド:帝国の祭典と人間の展示」がある。1903年に大阪で開催された第五回内国勧業博覧会で、アイヌ、沖縄、台湾などの先住民を「展示」した「学術人類館」をはじめ、19世紀末から 20世紀初頭に欧米諸国の博覧会で行なわれた同様の「人間の展示」の資料写真を紹介する。帝国主義と表裏一体の植民地主義や人種差別への検証とともに、家屋や生活用具を「舞台装置」のように設え、民族衣装をまとった「異民族」が日常生活を再現するさまを眼差す行為はある種演劇的でもあり、本展は、演劇あるいは劇場という装置に対する再帰的な批評性として機能するだろう。



小原真史「イッツ・ア・スモールワールド:帝国の祭典と人間の展示」「学術人類館」(第五回内国勧業博覧会)1903年、個人蔵



公式サイト:https://kyoto-ex.jp/

KYOTO EXPERIMENTロゴ © 小池アイ子

2020/12/25(金)(高嶋慈)

2021年01月15日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ