artscapeレビュー
長崎のハウステンボスをまわる
2021年01月15日号
[長崎県]
およそ四半世紀ぶりに長崎のハウステンボスを訪れ、広場に面する《ホテルアムステルダム》に宿泊した。前回の訪問はまだ学部生だった頃なので、その後、ヨーロッパ各地の古建築をだいぶまわってから改めて見学したのだが、意外と悪くない。おそらく、オランダという設定が絶妙だったのだろう。もしこれが古典主義の本場であるイタリアならば、コピー建築の細部や装飾がおかしかったり、プロポーションが狂っていると、だいぶ気になったはずである。だが、ヨーロッパの様式建築は一枚岩というわけではなく、イタリアから遠くなると少しずつ崩れていく。したがって、オランダ風という意匠は、そもそも正確さが強く求められるわけではない。例えば、《パレス ハウステンボス》は、イタリアやフランスではなく、いかにもオランダならありそうな北方のバロック宮殿だと思いながら見ていたが、説明を読むと、完全なフィクションではなく、デン・ハーグにオリジナルがあって、そのコピーだということがわかり、妙に納得した。つまり、池田武邦をはじめとする日本設計のデザインによって、かなりがんばってつくられた建築のテーマパークなのである。
空港から船を経由してアクセスしたが、親水空間としての運河をはりめぐらせながら、庁舎のある広場、遠くからも見えるシンボルとしての塔、パサージュのある一角など、都市計画もよくできている。また1992年のオープンから30年近い歳月が経ち、リアルな時間の経過によって街らしさも増強されたように思われた。
もちろん、ハウステンボスは、《ホテルアムステルダム》のほかに、《ホテルヨーロッパ》や《フォレストヴィラ》なども抱え、宿泊者が住人のように過ごすことができる。さらに興味深いのは、隣接して、分譲や賃貸による本物の高級住宅街《ワッセナー》も含んでいることだ。別荘として使っている人も多いのではないかと思われるが、ここでは自邸の前に船を係留することができ、すぐにクルージングを楽しめる。ハウステンボスは、おそらくバブル期だからこそ遂行できたとんでもないプロジェクトだった。逆に今の日本では、途中でストップがかかり、実現できないだろう。だが、決して安普請ではない、お金をかけた建築群は確実に資産となり、未来に残るのではないか。
2020/12/12(土) (五十嵐太郎)