artscapeレビュー

横浜の3つの建築展をまわる

2021年01月15日号

[神奈川県]

横浜にゆかりがある3人の建築家の展覧会が同時期に開催された。横浜市市庁舎の新旧を担当した2人の巨匠を組み合わせた「M meets M 村野藤吾展 槇文彦展」(BankART KAIKO、BankART Temporary)と、倉敷から巡回した「建築家・浦辺鎮太郎の仕事展・横浜展 都市デザインへの挑戦」(横浜赤レンガ倉庫)である。

BankART KAIKOの「村野藤吾展」は、以前の村野展にも出品されていたビルやホテルなどの模型が再び並んでいたが、今回のポイントは、やはり《横浜市旧市庁舎》に関する図面や映像だろう。特に手描きによって、原寸大で描かれたドア・ノブや照明のドローイングが味わい深い。なお《旧市庁舎》は、保存されるかどうかが注目されていたが、星野リゾートがホテルにリノベーションすることになり、幸い解体されないことになった。今後、どのように再生されるか期待したい。



「村野藤吾展」の展示風景より


BankART Temporaryの「槇文彦展」は、1階の吹き抜けにおいて《横浜市新市庁舎》の超大型の断面図や細部で使われた素材、横浜近郊のプロジェクト群、そして《ヒルサイドテラス》の試みを紹介する。そして3階では、アメリカや中国など、海外の作品や、これまでの国内の代表作の模型とパネル群を展示していた。改めて、彼の作品の実物をけっこう見ていたことを確認する(欲を言えば、《岩崎美術館》も入れてほしかった)。なお、林文子市長の意向により、2020年に開催予定だったオリンピックに間に合わせるように急いで完成させた《新市庁舎》は、室内化された広場やストリート、そして川沿いのデッキなどを備え、立体的な都市空間を内包している。



BankART Temporary1階の吹き抜けに展示された槇文彦のプロジェクトたち



槇文彦による代表的建築群の模型



槇文彦が手掛けた《横浜市新市庁舎》の外観

さて、これらの「M meets M」展がわりとあっさりしていたのに対し、浦辺鎮太郎の展示は、リサーチを踏まえ、大学時代や若き日の貴重な資料とともに、多面的な切り口を提示し、濃厚な内容だった。彼の独特なかたちも面白いのだが、大原總一郎の意志を継ぎ、一連の建築プロジェクトを通じて倉敷の街を形成してきた浦辺の軌跡と、横浜の都市デザインとの接点も紹介されていたことが印象に残った。

なお、彼は横浜で《横浜開港資料館》や《大佛次郎記念館》などを手がけている。また、アーティストによる倉敷の鳥瞰図や、デザイン・サーヴェイの図面など、浦辺本人から少し引いた展示が組み込まれていたことも興味深い。本展は、浦辺の生涯の作品を網羅的に紹介していたが、個人的には《黒住教新霊地神道山大教殿》のスケッチ、ドローイング、模型を見ることができたのがよかった。



浦辺鎮太郎による卒業設計の図面など



浦辺鎮太郎が構想した倉敷の都市デザイン


浦辺鎮太郎による《黒住教新霊地神道山大教殿》の模型

M meets M 村野藤吾展
会期:2020/10/30~2020/12/27
会場:BankART KAIKO

M meets M 槇文彦展
会期:2020/10/30~2020/12/27
会場:BankART Temporary

建築家・浦辺鎮太郎の仕事展・横浜展 都市デザインへの挑戦
会期:2020/11/14〜2020/12/13
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館

2020/12/08(火)(五十嵐太郎)

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