artscapeレビュー
罪の声
2021年01月15日号
会期:2020/10/30~未定
本作のモチーフとなった「昭和の未解決事件」を私はよく覚えている。当時、小学生であったが、身近な製菓会社がターゲットにされたことや、ふざけた名前の犯人グループ、新聞社に何回か送り付けられたおちょくった文面の脅迫状などが、子ども心にも印象深かったからだ。当時、近所の駄菓子屋やスーパーマーケットの店頭から、保安上、菓子が一斉に消えたときは、この事件の深刻さを肌身に感じた。「遠足のお菓子が買えない!」という小学生ならではの悩みもあいまって。だから本作の原作が発売された途端、私は夢中になって読んだ。多くの読者が感じただろうが、原作はフィクションであるにもかかわらず、本当にそうだったのではないかと思わせるほどの迫力があり、心が震えた。想像上とはいえ、つまり誰もが「昭和の未解決事件」の真相を知りたがっていたのである。そして私は小学生ゆえに知り得なかったが、当時から推測されていた犯人グループの真の狙い、株価操作で大金を得るという手法に舌を巻くと同時に、それに関わる社会の闇をも知ることになった。
さて、本作も原作にほぼ忠実に見事に描かれていたのだが、演出のせいか、映像ゆえの特性なのか、感情により訴える作品となっていた。タイトルが「罪の声」であるとおり、キーとなるのは犯人グループが犯行に使った「子どもの声」である。何も知らずに犯行に加担させられた3人の子どもたちの“その後”が描かれるのだが、特に本作では不幸な道を辿らざるを得なかったある姉弟の人生に胸を締め付けられた。実際に「昭和の未解決事件」でも、同じような運命を辿った子どもたちがいるのかもしれないと想像を巡らせると、また切なくなるのである。
なぜ、製菓会社や食品会社が事件のターゲットとなったのか。それは株価操作をしやすかったからと原作では描かれる。また昭和時代は菓子の包装の仕方が緩かったことも事実で、店頭で比較的簡単に「毒物」を混入することができた。実際に「昭和の未解決事件」を機に、ターゲット外の製菓会社でも商品の包装を厳重に行なうようになったと聞く。そうしたデザインやマーケット面を見てみても、「昭和の未解決事件」は社会を大きく揺るがした事件であり、それを真っ向から題材にしエンターテインメントにした本作は賞賛に値する。
公式サイト:https://tsuminokoe.jp/
2020/12/23(水)(杉江あこ)