artscapeレビュー
いわき市の建築と被災の記憶
2021年05月15日号
「Next World―夢みるチカラ タグチ・アートコレクション×いわき市立美術館」展は、佐藤総合計画が手がけた《いわき市立美術館》(1984)の展示室だけでなく、吹き抜けに面した2階のホールやエレベータの横(マウリツィオ・カテランによるミニ・エレベーターを展示)、1階奥のロビーも活用する意欲的な企画だった。室内も、塩田千春やハンス・オプ・デ・ビークなど、国内外の勢いのある現代美術をとりそろえ、楽しめる内容である。特に印象に残ったのは、リチャード・モスによる凄まじい難民キャンプの風景や、ひたすら階段を使って上下、もしくは部屋を横切り水平方向に歩く映像をつなげたセバスチャン・ディアズ・モラレスの作品《通路》だった。
続いて海岸沿いに向かい、《いわき震災伝承みらい館》を訪れたが、普通の公民館のように見えたので、津波で被災した建物の再活用かと思いきや、完全な新築である。最後は階段をのぼって上階から海が見えるというセオリー通りの空間構成だが、あれだけの災害を記憶する施設なのだから、もう少し建築のデザインにも力を入れてほしい。もちろん展示の内容や手法も、である。
その後、南下して小名浜に移動し、市場や水産物の飲食店が入る複合施設の《いわき・ら・ら・ミュウ》を訪れた。2階の「ライブいわきミュウじあむ」が、311を伝える展示として紹介されていたからである。正直、キラキラネームのような施設名はどうかと思うし、展示のデザインはごちゃごちゃしていて素人っぽいのだが、それでもまさにこの建物がかつて被災し、それが復活して使われているという事実が重みを与えていた。気仙沼の《シャークミュージアム》における震災の記憶ゾーンと似たような位置づけの展示と言えるだろう。
すぐ近くにあるのが、やはり津波の被害によって、多くの生物が犠牲になった《アクアマリンふくしま》(2000)だ。日本設計が手がけ、湾曲する巨大なガラスに包まれた建築である。現在、被災の痕跡はまったくわからず、館の歩みを紹介する展示のみが伝えられていた。ともあれ、水族館は屋上から歩く開放的な空間において、環境展示を工夫しており、なかなかの力作である(ただし、大きな水槽を眺めながら寿司を食べられるというのは微妙かもしれない)。最後に別棟の《金魚館》に立ち寄ると、様々な自然の生物を見てきただけに、改めて金魚という存在がいかに人工的につくられた生物なのかを痛感させられ、それも興味深い。
「Next World―夢みるチカラ タグチ・アートコレクション×いわき市立美術館」展
会期:2021/04/03〜 2021/05/16(*5月16日まで臨時休館につき、会期延長を検討中)
会場:いわき市立美術館
2021/04/11(日)(五十嵐太郎)