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崇仁地区をめぐる展示(後編)『Suujin Visual Reader 崇仁絵読本』刊行記念展

2021年05月15日号

会期:2021/04/17~2021/06/20(会期延長)

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

前編から)

後編で取り上げるのは、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAでの『Suujin Visual Reader 崇仁絵読本』刊行記念展である。同ギャラリーでは毎年、海外作家を招聘して展覧会、ワークショップ、レクチャーを実施しており、2019年度の招聘作家であるジェン・ボーが行なったワークショップ「EcoFuturesSuujin」が本展の経緯にある。ボーは、1922年に京都で採択された日本初の人権宣言「全国水平社創立宣言」に着目し、この宣言を「雑草や植物を含むすべての種の平等」へと拡張的に更新するための草案をつくるワークショップを行なった。また、崇仁の歴史や魅力を視覚的に伝えるための本の編集にも着手。その刊行記念展である本展では、ワークショップ参加者で崇仁にあるアトリエで制作する森夕香が描いた挿画が展示された。



[写真:来田猛 提供:京都市立芸術大学]


柔らかいタッチと色彩で描かれた森の挿画は、現在の街の生活風景で始まり、その歴史を辿り直していく。現在と過去、そのあいだの連続性と断絶を媒介するのが、すでに解体されて姿を消した崇仁小学校の校舎である。前編で紹介した「『タイルとホコラとツーリズム』Season8 七条河原じゃり風流」でも参照された小学校建設のための「砂持ち」に始まり、学び舎の風景、水平社宣言の起草、住民たちが自ら設立した柳原銀行とその移転・資料館設立へと続く。2000年代以降は、小学校でのビオトープ建設、閉校、市民活動の場としての利用、芸大移転に向けたさまざまなアートプロジェクトの展開、新校舎の建築プラン、ボーのワークショップの様子へと続いていく。最終ページには、意味ありげな「何も描かれていない白い余白」が残されている。その空白は、「解体工事による現在の空き地」を物理的に喚起するとともに、それに伴う「記憶の消滅や忘却」を示唆する。一方そこには、「まだ見ぬ未来の可能性の余白」への希望もせめぎ合う。

この白紙のページは、徐々にさまざまな描き込みで埋められ、「空白」があったことそれ自体も忘却されていくだろう。記憶の忘却やジェントリフィケーションにアートがどう対峙しえるのか、今後大きく様変わりするであろう地域の変遷とともに注視していきたい。



[写真:来田猛 提供:京都市立芸術大学]


*緊急事態宣言延長をうけ、5/31まで休館。

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