2021年07月15日号
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artscapeレビュー

佐藤卓展 MILK

2021年05月15日号

会期:2021/05/03~2021/05/15

巷房[東京都]

令和3年春の紫綬褒章を受賞したグラフィックデザイナーの佐藤卓。いまや、名実ともに日本のデザイン界を牽引する存在である。彼はさまざまな企業や団体のロゴマークやパッケージなどのデザインを請け負いながら、一方で積極的に展覧会にも携わる。21_21 DESIGN SIGHTの館長を務めていることでも知られるが、他所でも大なり小なりの展覧会ディレクションを頻繁に務めている。そんななかでも本展は毛色が少々違い、彼自身の個展とでも言うべき活動だった。

「MILK」というタイトルどおり、作品の題材は牛乳のパッケージデザインである(名前は伏せられているが、それは明らかに「明治おいしい牛乳」のパッケージデザインである)。私も2016〜17年に21_21 DESIGN SIGHTで開催された「デザインの解剖展」にテキスト執筆と編集で携わった身なので、この牛乳のパッケージデザインは非常に馴染み深い。デザインの視点で牛乳のパッケージを解剖していくうちに、アート的な要素を発見し試みたという主旨のようだ。パッケージをディテールまで正確に巨大化する手法は、佐藤の御家芸である。なぜ、巨大化するのか。それは普段、その商品を見慣れているはずなのに、実はあまりよく見ていないという消費者の行動や心理を指摘するためだ。パッケージを巨大化して展示することで、消費者は「この商品はこんな風につくられていたのか」と初めて知り得る。本展でもその手法を使いながら、しかし牛乳のパッケージの全体像をあえて見せず、注ぎ口や底面、角、さらには組み立て前の展開図を切り取って巨大化した。一部分を切り取ることで、そこにアートのような面白さが生まれたというわけだ。加えてパッケージに使用された紙材が細かく切り刻まれ、袋詰めにされたりボード状に固められていたりした。これらも解剖した末のアート化である。


展示風景 巷房地下1階


展示風景 巷房3階


前述した「デザインの解剖展」で、私は佐藤のディレクション下で仕事をした経験からわかったことだが、日頃から大量生産品のデザインに携わる彼は、世間一般に浸透する大量生産品にまつわるマイナスイメージに対してずっとジレンマを抱えてきた。おそらく誰よりも大量生産品への愛が深いデザイナーではないかと思う。そうした意味で、本展は牛乳のパッケージをアートに仕立てることで、大量生産品にもっとスポットが当たるようにしたかったのではないか。そんな思いが巡った展覧会であった。


株式会社TSDO:https://www.tsdo.jp/news.html


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