artscapeレビュー

「2121年 Futures In-Sight」展

2022年01月15日号

会期:2021/12/21~2022/05/08

21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2[東京都]

2021年が過ぎ去り、2022年が幕を開けた。2021年の終わりに始まった本展は、2121年、つまり100年後に思いを巡らせることがテーマである。未来に目を向けることは、同時に過去にも目を向けることへとつながる。特に圧巻だったのは、最初のインスタレーション《宇宙138億年の歴史を歩く》だ。21_21 DESIGN SIGHTのいつもの企画展とは逆コースを辿り、脇の通路から展示が始まるのだが、これには理由があった。その細長い通路には、宇宙の誕生から現在までの138億年の歴史を1年(365日)の長さに置き換えたスケールが表示されていたのである。来場者は歩きながらそれを自分の足で測り、体験する。そもそも138億年という時間感覚がピンと来ないが、1年の長さに喩えられると非常にしっくりくる。こうすると人類の誕生も、古代文明の起こりも、近代社会も、ほんのわずかな分数や秒数でしかなかったことに気づかされるからだ。この壮大なズームアウトの視点を植え付けられて、いよいよメイン会場へと入る。


展示風景 21_21 DESIGN SIGHTロビー[撮影:吉村昌也]


本展の軸となるのは、未来への羅針盤として企画者側が独自に編み出したツール「Future Compass」である。これは3層から成る円盤で、1層目に5W1Hの疑問詞、2層目にPresent、Past、Futureなどの時間帯を表わす名詞、3層目にChange、Want、Createなどの動詞が並んでいる。それぞれの層からひとつずつ言葉を選んで組み合わせ、それに伴った独自の問いと、それに対する視座や洞察を導き出す仕組みだ。本展ではデザインやアートをはじめ、建築、音楽、農業、科学などさまざまな分野で活躍する72人が、この「Future Compass」を使って未来を想像することを試みた。メイン会場には、そんな彼らの言葉や作品が所狭しと並ぶ。つまりこれは「未来を考える行為」を観る展覧会なのだ。


展示風景 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー2[撮影:吉村昌也]


さまざまな専門領域からの視座や洞察は刺激的で、自分の世界観まで豊かになるような感覚を覚えた。来場者もスマホを使って「Future Compass」を試すことができるため、私ならどの三つの言葉を選ぶだろうかと思うが、しかしそう簡単には思い至らない。悲しいかな、私が現在に強く縛られているからだろう。頭をもっと柔軟に、視野をさらに広く、現在、過去、未来へと時間を自在に行き来できるズームアウト力を養わなければならないと痛感する。たぶんこの気づきが、より良い未来を想像し創造する一歩になるのだろう。


展示風景 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー2[撮影:吉村昌也]



公式サイト:http://www.2121designsight.jp/program/2121/

2021/12/20(月)(杉江あこ)

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