artscapeレビュー

ミヤケマイ×華雪 ことばのかたち かたちのことば

2022年01月15日号

会期:2021/12/20~2022/01/29

神奈川県民ホールギャラリー[神奈川県]

「ことば」が先か、「かたち」が先か。本展を観た後、まるで「卵が先か、鶏が先か」のような呪文を唱えてしまった。本展のタイトルのひとつ「ことばのかたち」は言葉そのものの形を意味するので、おそらく文字を指す。あるいは発語の印象か。いずれにしても言葉が生まれた後にできたものだ。では、タイトルのもうひとつ「かたちのことば」は何だろう。ある形をどんな言葉で呼ぶか、どう言い表わすかということか。もしくは言葉にはできない形を指しているのか。

「ことばのかたち かたちのことば」は、美術家のミヤケマイと書家の華雪による二人展のタイトルである。どちらがどれとはっきり断言されているわけではないが、「ことばのかたち」を模索し表現するのは書家の華雪、そして「かたちのことば」をすくい上げ豊かに表現するのは美術家のミヤケマイだ。華雪は幼い頃に漢文学者・白川静の字書に触れたことが、書の作品づくりに取り組むきっかけになったと言う。象形文字である漢字は、まさに自然物などを象った形そのものであり、その点で「かたちのことば」とも言える。本展では東日本大震災後に被災地で行なったワークショップ「『木』を書いて、『森』をつくる」を採用し、自身のインスタレーションとして発表した。「木」と一文字だけ力強く書かれた書が天井近くから床まで垂れ下がる、これら作品群が奥へ奥へと連なる空間は、本当に森を見るようで圧巻だった。


華雪《木》(2021)[Photo: KABO]


一方、ミヤケマイは1階から地下1階へと連なる吹き抜けの会場をダイナミックに使い、港町の立地にちなんで海に見立て、水や舟をモチーフにした作品などを発表。なかでもインスタレーション《呉越同舟》は見ものだった。舟には来場者が乗ることができるのだが、大きな帆で真ん中が仕切られており、両端に座った者同士は自然と姿が隠れて、互いに顔を合わせることがない。帆にはつぶやきのような断片的な言葉の数々がプロジェクションマッピングによって映し出され、さらに互いの耳には異なる水辺の音が聞こえてくる。「呉越同舟」とはよく言ったもので、同じ舟(家庭や職場、学校などの比喩)に乗り合わせても、互いに別々の方向を向いていたり、見聞きし解釈する言葉が違っていたりする。そんな人間模様をミヤケマイはアイロニカルに表現する。形や現象に言葉を与え、その現象をさらに言葉によって際立たせた点が面白い。彼女ら二人の瑞々しい感性によって、言葉に静かに向き合えた時間だった。


ミヤケマイ《呉越同舟》(2021)[Photo: Kenryou Gu]


ミヤケマイ《天の配剤》(2020)[Photo: JUN YAMAMOTO]



公式サイト:https://www.kanagawa-kenminhall.com/kotobanokatachi/index.html

2021/12/19(日)(杉江あこ)

2022年01月15日号の
artscapeレビュー