artscapeレビュー

山陽の磯崎建築をめぐる

2022年01月15日号

[岡山、山口]

仙台を早朝6時台に出発し、新幹線を乗り継ぎ、11時台に岡山駅、そこからレンタカーを使い(途中で久しぶりに磯崎新の《岡山西警察署》(1997)に立ち寄ったが)、13時過ぎに奈義町現代美術館に到着した。企画展「花房紗也香展─窓枠を超えて─」のカタログに論考「どこまでが外部で、どこまでが内部か」を寄稿したこともあり、2年連続での同館の訪問となった。これまでに見た作品も勢揃いしつつ、子どもたちとのワークショップの作品も加わり、絵画によって白い展示空間にさまざまな「窓」をあけていた。展覧会にあわせ、彼女が企画した国際アートイベント「Nagi Contemporary Arts Project」はすでに終了していたが、山陰と山陽をまたぐYin-Yang (イェンヤン)Art Projectや(実際、奈義町は岡山よりも鳥取から行く方が近い)、今年、革細工作家が新設したギャラリースペースのStudio Moimを案内してもらう。またGallery FIXAの横には宿泊棟も開設したほか、今後はMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOによるこども園や、畝森泰行の中学校も建設されるらしい。人口5,500人台の奈義町において、いろいろな動きが起きている。



岡山西警察署



花房紗也香展 展示風景


翌日は 秋芳洞で建築にはつくれない凄まじい自然の地下空間を体験してから、 《秋吉台国際芸術村》(1998)の磯崎建築群をまわった。力作である。ピアノの発表会が終わるのを待ってから見学した、ルイジ・ノーノ作曲の「プロメテオ」に対応する特殊な群島型のホールは、やはりほかに類例がない空間である。その造形は秋芳洞も想起させるが、ここで「プロメテオ」を聴いてみたい。

現在、芸術監督が不在であるため、本来のスペックを生かした実験的な取り組みはあまりされていないようだが、ポテンシャルをもつ施設だ。例えば、高山明に依頼したら、独特の空間を生かした興味深い作品ができるのではないか。本館棟の背後にあって、おそらくアンドレア・パラディオのテアトロ・オリンピコを意識した野外劇場も、草が生え、長く未使用になっている。展示ギャラリーでは、ポストカードのコンテストを開催中だった。とんでもなく天井が高いレストランは、ウェディング業者が運営に入り、一連の施設が結婚式などで活用されている。宿泊棟では、実際に一泊することで、付設された中山邸(再現バージョン)をラウンジとして利用することもでき、これは大変に良かった。3,000円台という良心的な値段であり、テレワークにも使えそうだが、星野リゾートあたりがリニューアルをして、食事付きのプランを設定すれば、高価格のデザインホテルに変えられるのではないか。



秋芳洞



秋吉台国際芸術村ホール



秋吉台国際芸術村野外劇場



左は宿泊棟 中央が中山邸 右がレストラン



秋吉台国際芸術村宿泊棟



中山邸のサロンから秋吉台国際芸術村本館を望む

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